認知症いろいろ・脳血管性認知症もいろいろ
一番最初の投稿でご紹介していたと思います。急性硬膜下血腫から認知症の症状が強くなられた方のお話をさせて頂きます。私にとってこの方はコウノメソッドで初めて対応させて頂いた方でした。認知症の症状は4大認知症の特徴からつかめるものもありますが、ご性格も含みのでしょうか個別性もあります。時が経てば「あれ?レビーな感じ?」など症状も被ってきます。本当に認知症はいろいろです。
家で倒れているのを発見‼救急搬送‼
家で倒れているのを発見‼救急搬送‼
91歳(当時)女性の方、ご主人と二人暮らしでお寿司屋さんをご夫婦で長年経営されていました。
ご主人は神経難病になられ施設入居となり、店は閉じて毎日施設まで、たこ焼きをお土産に持ってこられる明るく元気な方でした。
ある日、ご自分の整形外科の受診で送迎を元従業員の方にお願いされていて、インターホンを鳴らしてもなかなか出て来ないため、警察を呼んで家に入ると台所の前で倒れており、救急搬送、搬送先で急性硬膜下血種、左多発肋骨骨折、肺炎の診断にて入院となった。発見時意識はなかったとのこと。転んだのかな?いつ転んだのだろう?発見までどれくらい時間経ってたのかな?寒かっただろうに・・・
意識戻らず、家族は手術望まず
親戚一同(ご主人の兄弟)が相談があると施設に来られた。意識が戻らない、手術をするかしないか決めて欲しいと医師から話があった。手術をしなければ余命1週間だろう、でも高齢だから手術に耐えられるかわからないと言われたとのこと。
親戚も皆さん高齢でご主人の意見も聞きたい、どのように話したらいいかもわからないと泣きながらご相談されてきました。一緒にご主人のお部屋まで行き事情を話しました。もう高齢だから手術をして痛い思いもさせたくないからこのままでと皆さんで決断されました。余命1週間・・・私と同僚の看護師とで仕事の帰りにご様子が気になり病院へ面会に通いました。
意識が戻り施設入所、暴言暴力行為が始まる
「意識が戻りました」と病院から施設に電話がきました。入院して2週間は経っていたと思います。急いでご主人を連れて病院に向かいました。面会は短い時間でしたがご主人はホッとされていました。その後も数日入院され面会に行く度に元気になられ食事も食べられるようになり、今後一人暮らしは無理だろうとのことでご主人と一緒に施設入居になられました。病院の面会で言われた一言をまだ覚えています。
「お父さんより先に逝けないでしょう!」って、本当に有言実行されましたよね。
無事に退院、施設に入居されました。丁度、ご主人の部屋の廊下を挟んだ前の部屋が空いていたのでそこに入られました。先にお伝えしていませんでしたが、退院時は車椅子で歩くのも厳しくなられていました。ご主人も車椅子でした。
ご夫婦で入居されさてこれからだなと思っていた矢先でした。
夜間、ご主人の部屋に這って行き、ご主人の首を絞めそうになったり、ご主人の部屋からベランダに出て飛び降りそうになったり、スタッフを宗教団体の人だと言いこの人の言っていることは嘘だ、「あっちにいけ!」などと暴言を吐き、引っ掻き、物を投げたりされるようになりました。
親戚の方が面会に来られても泥棒呼ばわりで泣いて帰っていかれたこともありました。たこ焼きを持ってご主人の面会に来られていた穏やかだった時を知っているスタッフには人が豹変したとしか思えない程でした。施設でこのような行為が起こるとすぐにでも精神科の受診、入院をと言われます。確かに必要な方もいらっしゃるのですが、精神科から帰館される時には既に過鎮静になられており弱って帰って来られるケースも多いのです。
訪問診療の先生に相談をし、先生もコウノメソッドに興味を示されておりご家族にお話して施設での薬物療法を開始することにしました。
穏やかな生活に戻る
まずはご主人の首を絞める、ベランダから飛び降りそうになる、急に豹変して怒り出すなどを意識障害かもと捉え、シチコリン注射、点滴を始めました。1日目で効果がでて穏やかになられました。それを3日間続けてそれと同時にチアプリドを朝、夕に開始しました。夜間も落ち着き寝てくださるようになりました。米ぬかのサプリメントも始めたところ、ご主人の食事介助をされたり、笑顔も増えてきました。ご家族も元に戻ったと喜ばれました。今まで苦手な人だったのにケアもしやすくなりますし、スタッフの関わり方もかわってくるものです。それからご主人が誤嚥性肺炎でしたが看取られ、しっかり喪主も務められました。
先に書いたように「お父さんより先に逝けないでしょう!」を守られました。
月日が経ち一時食欲がなくなり、チアプリドは止めて食欲セットのスリピリド+プロマックで食事量が上がり、小さな缶ビールを飲まれる日もあり、97歳でご逝去されました。終末期に入られた頃にはもう内服薬はありませんでした。
まとめ
コウノメソッドを知り、医療と介護は両輪と言う言葉を知りました。まさしくそうです。医療だけ介護だけでは認知症治療、ケアは上手くいきません。それを初めて実感した症例でした。認知症に薬は駄目ではありません、確かに飲まなくてよいなら薬はいらないと思います。でも介護する人間が疲弊をしてしまったら、誰がご本人を守れるのでしょうか、少量適量処方でご本人も家族も幸せになれる。認知症治療、ケアはまさしく医療介護の両輪で走らなければですね。
日本認知症研究会副代表。看護学校卒業後、内科外来、透析室勤務を経て訪問看護ステーションにて3年間在宅医療に関わり、その後、介護付き有料老人ホームの看護職員として長年務められる。多くの認知症の入居者に携わるうちに、認知症について興味を持ち看護師として貢献できる認知症ケアについて学ばれる。周囲の仲間からは「大将」の愛称で親しまれ、医師主体の研究会の代表を務められた他、中国、イタリアで開催された学会でのご講演など多方面で活躍されている。