頼れる介護。まずは要介護認定の申請から
「大切な家族の介護は、自分が頑張らなくては」。家族想いの優しさと責任感から、一人で介護の大きな負担を背負おうとする人がいます。しかし、介護の現場は思っているより過酷なもの。介護する側が倒れることのないよう、介護のプロによるサポートや、公的な介護施設・サービスに頼ることもとても大切です。その第1歩としてやっておくべきなのが、「要介護認定」の申請です。
介護はどんどん頼っていい
認知症介護の世界に「パーソン・センタード・ケア」という考え方があります。
これは、「認知症だから、何も理解できない」と諦めることなく、認知症患者さんを1人の人間として尊重し、愛情をもって正面から向き合うべきという考え方です。この考え方を持って介護に臨むことで、周辺症状として出る「うつ」や「アパシー」などの心理症状や、「徘徊」「暴言・暴力」といった行動症状の改善を目指します。
しかし、冷静に、根気強く、このパーソン・センタード・ケアを実行していくには、精神的、肉体的、経済的負担による介護疲れを少しでも解消していかなくてはなりません。そのために、私たちは40歳から介護保険料を国に納めることが義務付けられています。被保険者は、介護の負担を軽くするために、介護保険料を使って利用できるサービスの提供を受ける権利を持っています。介護が必要になったら、ぜひ、この権利を積極的に活用しましょう。
介護の必要性を計る「要介護度」を知ろう
介護保険による支援内容は、介護の必要性の度合いによって異なります。そのものさしの役割を持つのが「要介護度」で、必要性が低い方から「要支援」1・2.その上に、「要介護」1~5の計7段階で設定されており、以下が各段階の目安となっています。
<要支援1>
日常生活の動作を、ほぼ自分で行うことができる。
(具体例)
食事や排泄、入浴などほとんど自分で行えるが、掃除などで一部支援が必要。
<要支援2>
要支援1に比べ、自分でできることが少なくなり、支援とともに一部介助が必要。介護予防サービスの利用で、状態の維持・改善が期待できる。
(具体例)
食事や排泄などは自分で行えるが、入浴時に背中を洗えない、浴槽をまたげないなど一部介助が必要。
<要介護1>
立ち上がりや歩行が不安定で、日常生活において部分的に介護が必要。
(具体例)
排泄時のズボンの上げ下ろし、入浴時や着替えなど、一部介助が必要。
<要介護2>
立ち上がりや歩行が自分でできないことが多く、日常生活全般に部分的な介助が必要。
(具体例)
着替え時の見守り、排泄や入浴の一部、あるいは全てに介助が必要。
<要介護3>
立ち上がりや歩行が困難で、日常生活全般に全介助が必要。また認知症の症状があり、日常生活に影響がある。
(具体例)
排泄、入浴、着替えの全てに介助が必要で、認知症の症状に対応が必要。
<要介護4>
立ち上がりや歩行が自力ではほとんどできない。食事などの日常生活が、介護がないと行えない。コミュニケーションにおいても理解力の低下があり、意思疎通がやや難しい。
(具体例)
排泄、入浴、着替えに全て介助が必要で、認知症による暴言や暴力、徘徊などの症状に対しての対応がより必要。
<要介護5>
寝たきりの状態で、日常生活全般で全て介助が必要。理解力低下が進み、意思疎通が困難。
(具体例)
寝たきりで食事やオムツ交換、寝返りなど介助がないとできない。話しかけても応答がなく、理解が難しい。
これら7段階のどれに相当するかは、自治体や業務を委託する法人に所属する介護認定調査員やコンピュータ、各市区町村の介護認定審査会による公正な審査を経て決定されます。
要介護認定の申請方法
要介護認定の申請に必要なのは、介護保険証と介護保険申請書、身分証明書です。市区町村によっては、印鑑や、日常生活における現在の状態を知るための「基本チェックリスト」が求められる場合もあります。
申請は市区町村の担当窓口で行うのが一般的ですが、地域包括支援センター経由、または郵送による受付に対応してもらえる場合もあるので、まずは市区町村のホームページなどで詳しい申請方法を確認しましょう。
申請から認定までは最大30日間
要介護認定においては、不正や誤認定がないよう、調査や判定が入念に行われます。
申請後、最初に行われるのは、「介護認定調査員」による認定調査です。調査員は、申請者の現在の住まい(自宅、入居施設、入院中の場合は当該施設や病院)を訪れ、家族立会のもとでヒアリングや身体機能の確認を行います。
どの程度まで身体を動かせるのか、意思の疎通が図れるか、日常生活で何に困っているかなど、1つずつ細かくチェックしていきます。
認定調査が終わると、調査内容をもとに調査員が作成した認定調査票をコンピュータに入力し、一次判定を行います。これはコンピュータの客観性を重視し、事実情報をもとにブレなく正しい判定を行うためです。
ここで活用されるのが、「1分間タイムスタディ・データ」と呼ばれるデータです。これは、介護老人福祉施設や介護療養型医療施設などの施設に入所・入院している約3500人の高齢者を対象に、48時間かけてどのような介護サービスを、どれくらいの時間にわたって行われたかを調べたデータで、コンピュータはここから心身の状況が申請者と最も近い人を探し出し、要介護度を決定する際の基準にします。
コンピュータによる一次判定が完了すると、次は保険・医療・福祉の専門家で構成される市区町村の「介護認定審査会」による二次判定へと移ります。ここでの話し合いによって、要支援1・2、要介護1~5のどれに該当するか、または非該当(自立)かの最終結論が下されます。
こうした行程を経て、申請から最大30日間を経て、要介護認定の結果通知書と、申請時に提出した介護保険証が郵送されます。
なお、認定された要介護度には有効期間があります。継続して介護サービスを受けるためには、結果通知書ならびに介護保険証に記載されている有効期限内に忘れず再申請する必要があります。
また、認定結果に納得がいかない場合は、市区町村の担当窓口で尋ねると、判定理由など丁寧に説明してくれます。それでも腑に落ちない場合は、決定通知書が届いてから90日以内であれば、各都道府県にある「介護保険審査会」に不服申し立てを申請することもできます。
要介護認定基準の1つ「高齢者の日常生活自立度」
介護認定調査員による要介護認定で求められるのは、ご本人の状態をありのままを見せることです。現在の状況をできるだけ正しく伝え、日ごろ思っていることを率直に伝える必要があります。
しかし、介護認定調査員さんが自宅にこられるという非日常的な事に気分が高揚されて、あるいはサービス精神が刺激されていつも以上に頑張ってしまう方もいらつしゃいます。
あらかじめ、そういうことも予想して、ご家族が同席され、日常の様子を紙に書いてそっとご本人に分からないように手渡したり、あるいは送ってくるねと、ご本人と離れた時間を上手にとって実際のところをお伝えする工夫も必要です。
認知症高齢者の要介護認定の判断基準の1つとされているのが、「認知症高齢者の日常生活自立度」です。厚生労働省が定めたもので、要介護認定以外にも、ケアプランや通所介護計画、医療現場では看護計画やリハビリテーション計画を立てる際に参考にされることもあります。ランクが重くなるほど自立度は下がり、周囲のサポートが必要になります。
「認知症高齢者の日常生活自立度」
<ランクⅠ>
何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立している。
<ランクⅡ>
日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られても、誰かが注意していれば自立できる。
<ランクⅡa>
家庭外でランクⅡの症状が見られる。
(具体例)
たびたび道に迷う、買い物や事務、金銭管理などそれまでできたことにミスが目立つ等
<ランクⅡb>
家庭内でもランクⅡの症状が見られる。
(具体例)
服薬管理ができない、電話対応や訪問者の対応など一人で留守番ができない等。
<ランクⅢ>
日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが時々見られ、介護を必要とする。
<ランクⅢa>
日中を中心としてランクⅢの症状が見られる。
(具体例)
着替え、食事、排便・排尿が上手にできない・時間がかかる、やたらに物を口に入れる、物を拾い集める、徘徊、失禁、大声・奇声をあげる、火の不始末、不潔行為、性的異常行為等。
<ランクⅢb>
夜間を中心としてランクⅢの症状が見られる。
(具体例)
ランクⅢaと同じ。
<ランクⅣ>
日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られ、常に介護を必要とする。
(具体例)
ランクⅢと同じ。
<ランクM>
著しい精神症状や問題行動あるいは重篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする。
(具体例)
せん妄、妄想、興奮、自傷・他害等の精神症状や精神症状に起因する問題行動が継続する状態等。
出典:厚生労働省「認知症高齢者の日常生活自立度」
https://www.mhlw.go.jp/topics/2013/02/dl/tp0215-11-11d.pdf