汐入ぱくクリニック
新井正晃院長インタビュー

投稿日:2024.01.09

大阪市立大学医学部を卒業した新井先生は、大阪府済生会泉尾病院で初期研修を受けた。スーパーローテーションで各科を回るうち画像診断に興味を持った新井先生は、大阪市立大学医学部の放射線科へ入局し、系列のベルランド総合病院や大阪市立総合医療センターに放射線科医として勤務した。2009~2013年には非常勤の内科医として一次~二次救急も経験している。
2013年から関東に転居。2016年7月、横須賀市汐入町に「汐入ぱくクリニック」を開院した。2021年には「医療法人社団ドミナントサウンド」を設立して理事長に就任。積極的に訪問診療を行い在宅の高齢者に親しまれる一方、高度な認知症医療と栄養学の知識を駆使するスーパードクターだ。(取材日2023年11月20日)

もくじ
何でも相談できる気さくで身近な「かかりつけ医」
訪問診療と認知症診療を大きな柱として
「オーソモレキュラー在宅医療」を広めていきたい

何でも相談できる気さくで身近な「かかりつけ医」

Q.医師を志した動機をお聞かせください。

もともと私は、朴正晃(ぱくちょんふぁん)という名の在日韓国人でした。親たちの世代は職業差別など在日ゆえの苦労を経験してきました。そのため、小さい頃から「医者か弁護士になれば困ることはない」と吹き込まれて育ちました。幸い私は、成績も悪くなかったので、自然と医者に意識が向いたのです。大阪星光学院中学校・高等学校を卒業後、大阪市立大学医学部へ進みました。学生時代はたくさんアルバイトも経験しましたし、文学・哲学・音楽に強く意識が向いていました。音楽はジャズが好きで、中高は吹奏楽部、大学はジャズ研究会に所属していました。楽器はバスクラリネットです。

クリニックの法人名に「ドミナント」という言葉を使っていますが、これは和音の種類を指す音楽用語です。不安定な響きで音楽的な解決を必要とさせる和音ですが、同時にそれ自体が人の意識を強く引きつける美しさを持っています。医療も同じで、医療を必要とする人はいろいろな意味で不安定な状態にあります。私たちの仕事はその不安定さに介入し、その人の生活・人生をより豊かで意味深いものにしていくことを目指します。そのような思いから法人名を「ドミナントサウンド」と名づけました。

Q.医師としてのキャリアを積んだプロセスをお聞かせください。

放射線科を選んだのは、画像診断に興味を持ったからです。放射線科の医師は、CT・MRIなど画像全般の評価と診断を行います。がんの放射線治療では照射を行いますし、カテーテルを入れて血管内治療を行うのも放射線科の仕事です。心臓にカテーテルを入れるのは循環器科が行い、脳にカテーテルを入れるのは脳外科が行いますが、それ以外のカテーテルを使う血管内治療は、放射線科の医師が行うのです。放射線科に入ったことで、私は認知症治療に携わる前から画像を見慣れていました。これにはすごく助けられたと思います。

大阪時代の私は、大阪市立大学の医局人事で勤務地が決まっていました。大阪市立総合医療センターは市立の最も大きな病院で、医師はほとんどが大阪市立大学の出身者でした。その後2回目のベルランド総合病院では、放射線科の副医長になっています。2013年8月から、ご縁をいただいて東京都の在宅専門クリニックに勤務し、そこで副院長から院長を経験しました。

Q.訪問診療を始められたのはどのような理由からですか?

東京在職中は、高齢者施設向けの訪問診療が中心のクリニックでした。大阪時代は1日中画像と向き合う生活をしていたので、訪問診療を始めたことで真逆の生活になりました。対象となるのは、ほぼ高齢者です。しかし私に違和感はなく、新しい仕事を楽しむことができました。それは私が関西人だったおかげもあったでしょう。「まいど、医者です。また来たで」と、人との距離を詰めてコミュニケーションがとれたからだと思います。定期的に訪問すると、「面白い人間がまた来たな」と、よく覚えてもらえたのです。2014年4月には横須賀で在宅専門クリニックの院長になりました。この間に在宅医療に対して十分な手応えを感じていたので、以降は在宅医療に専念することを決めました。

訪問診療と認知症診療を大きな柱として

Q.開業に到った経緯をお聞かせください。

訪問診療を始めると、患者さんは高齢で認知症の人が少なくありません。教科書に書いてあることでは太刀打ちできないのです。新たに認知症を学んでいかざるを得ませんでした。横須賀に来てからそう感じた私は、熱心に認知症の勉強を始めました。そこで出会ったのが、コウノメソッドです。ネットで見つけた「ドクターコウノの認知症ブログ」に衝撃を受け、熱心に読み始めました。実際にコウノメソッドを治療に取り入れてみると、すごく効果があるのです。特に薬の使い方は勉強になりました。「ああ、落ち着いてきた」「ああ、元気になってきた」という変化が、手に取るようにわかります。と同時に「この患者さんのこういう行動は、こういう理由から出ていたんだ」ということもわかるのです。

コウノメソッドの実践医になった私は、2016年7月に「汐入ぱくクリニック」を開院しました。サプリメントを含めた自由診療の部分を、自分の責任で実践したかったからです。汐入駅周辺は訪問診療で回っていましたし、在宅中心とすることは前から決めていました。CTなどの高度な検査は周辺の病院に依頼すればよいし、自分が患者さんとしっかり向き合うのに広い敷地面積は必要なかったので、現在の場所に開業しました。

Q.このクリニックの特色は何でしょうか?

4つあると思っています。

1つ目は、訪問診療です。身体・健康上の理由で通院が困難な方に対して、私ともう一人の医師がご自宅を訪問します。診察、薬の処方、検査、注射、点滴、傷の処置など、さまざまな医療をご自宅で受けることができます。

2つ目は、認知症診療です。コウノメソッドを治療戦略として取り入れ、本人とご家族がストレスなく安心して暮らせるための治療を行っています。

3つ目は、点滴療法です。グルタチオン療法、マイヤーズカクテル、高濃度ビタミンC点滴療法などを積極的に行い、患者さんのQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)の向上に努めています。

4つ目は、通院しやすい立地です。当院は、京急線汐入駅から徒歩1分のところにあります。通院しやすいということは、患者さんやご家族にとって大きなメリットです。
一方で、気をつけていただきたいこともあります。当院は、広い待合室で多くの患者さんにお待ちいただけるクリニックではありません。感染予防のため完全予約制としており、外来の予約は数ヶ月先まで埋まっています。外来はすぐに受診できない場合もありますので、ご理解ください。訪問診療の相談は随時受け付けております。寝たきりでなくても、お一人での通院が困難であれば訪問診療の対象になりますので、気軽に相談いただければと思います。

Q.認知症の治療で何か工夫していることはありますか?

コウノメソッドを行っているので、薬物療法ではサジ加減を大切にしています。量の調整を細かく行うということですね。例えば抗認知症薬のリバスタッチをよく使いますが、最低量の4分の1といった低用量から使います。増量規定を行ったらダメですね。70代前半の身体が元気な人だったらいいかもしれませんが、80代、90代の人に増量はできません。

私は、アリセプトなどのコリンエステラーゼ阻害剤は、アクセルだと思うのです。ですから、意欲を出してもらいたいときには使います。ただ、相手は70年、80年使ってきたビンテージカー(製造されてから多くの年数を経た自動車)のようなものです。適切なメンテナンスもなしにアクセルをふかし続けると、やはり傷みます。そこでメンテナンスのために、例えばビタミンB群を入れてあげるとか、DHA(ドコサヘキサエン酸:青魚のサラサラ成分)を入れてあげます。車でいえば、エンジンオイルをきれいにしてあげる感じです。患者さんにもそう説明します。「このお薬(アリセプトなどのコリンエステラーゼ阻害剤)はアクセルに過ぎないからね。これだけじゃ、良くならないよ」と言ってあげるのです。在宅のお年寄りはほとんど、貧血を伴わない鉄不足、亜鉛不足、ビタミン不足などに陥っています。そういう状態をほったらかして治療をしても、うまくいきません。まずは、治療の前提を整えてあげなければならないのです。食べ物だけでは十分補いきれないので、薬やサプリメントを使うことになります。

「オーソモレキュラー在宅医療」を広めていきたい

Q.サプリメントはどのようなものを使っていますか?

いろいろ使っています。いちばん多いのは、ビタミンB群ではないでしょうか。酸化ストレスを取り除いてくれるので、フェルガードもよく使います。さっきのビンテージカーのメンテナンスに例えると、冷却水を取り換えるような感じです。米ぬかに含まれるポリフェノールがいいからといって、認知症の治療効果が現れるレベルまで食べ物で補おうとすると、玄米を1日何キロも食べなければならないことになります。そこから抽出した有効成分を効率よく入れてあげたいので、サプリメントが必要になるのです。

高齢者に不足している栄養素をまんべんなく補充しようとすると費用がかかるので、パーフェクトにはできません。しかし、ビタミンB群とDHAの2つはアルツハイマー病の進行予防にすごく大事だというエビデンスが出ていますし、ある程度保険が使えるので優先的に補充します。そうした工夫をしながら、オーソモレキュラー栄養療法を用いた医療を実現しようとしています。

Q.オーソモレキュラーとはどのようなものですか?

「分子栄養医学」や「分子整合栄養医学」と称されています。身体に必要な栄養素、ビタミン、ミネラル、アミノ酸などを分子レベルで最適な量をきちんと投与して、それで病気の治療を行う医学です。個人の体質やそのときの体調、病状などによって、必要な栄養素の量は全然違います。下手をしたら100倍くらい違うのです。それを的確に評価して適切に補っていく。これで患者さんは、かなり変わります。こういう医学の潮流は、50~60年以上前からあったのですが、なかなか表舞台に出てきませんでした。

クリニックを開業後まもなく、私はオーソモレキュラー栄養療法の勉強会に通うようになって、どっぷり浸かりました。オーソモレキュラー栄養療法は、3つの要素で成り立っています。食事(血糖のコントロールやタンパク質摂取の最適化)、サプリメント(栄養素の補充)、生活習慣(ストレスマネジメントや適度な運動やデトックス)です。私はこの手法を、もっと在宅医療に取り入れたいのです。フェルガードを認知症の治療に使うのも、私はオーソモレキュラー医療だと思っています。

Q.どのようなクリニックでありたいと願っていらっしゃいますか?

オーソモレキュラー在宅医療を広めていくことが今のいちばんの目標です。認知症治療だけでなく、いろいろな慢性疾患やがん患者さんの代替医療、緩和医療にも素晴らしい威力を発揮します。これをやる前と後で、私の治療はものすごく変わりました。治療効果が上がりましたし、みなさん風邪をひきにくくなりました。

私はホームページに「何でも相談できる“かかりつけ医”を目指します」と書いています。病気だけを見るのではなく、食事や栄養を含めた患者さんの身体と生活をまるごと診ていくのが「かかりつけ医」のあるべき姿だと考えます。2018年11月に日本国籍を取得して、名前が新井正晃へと変わりましたが、横須賀で在宅医療を始めた頃の「ぱく先生」という名で今も呼ばれることがあります。それだけ、親しみを感じてもらっているのでしょう。これからもコウノメソッドやオーソモレキュラー在宅医療を実践して地域医療に貢献していきたいと考えています。

汐入ぱくクリニック

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〒238-0042 神奈川県横須賀市汐入町2-40 青柳ビル1階
電話 046-826-4189 FAX 046-826-4190

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