かがやきクリニック川口
腰原公人院長インタビュー
東京都杉並区で育った腰原先生は、1978年都立西高等学校を卒業後、東京医科大学医学科へ進学、臨床病理学教室(現・臨床検査医学分野)へ入局した。その後、両国の同愛記念病院で研修し、アメリカRed Cross生物医学開発Holland研究所で2年間、研究員生活を送っている。
帰国後、母校の臨床病理学教室講師、中央検査部副部長、同大学病院感染症対策室室長を経て2008年、東京医科大学病院感染制御部准教授となった。2010年に退職し、医療系会社学術顧問、介護老人保健施設長、介護施設・グループホーム等の訪問診療を行う。2015年、埼玉県川口市に「かがやきクリニック川口」を開院。医学博士。臨床検査認定医、認知症サポート医。(取材日2023年12月15日)
日々の暮らしの「輝き」をサポートする総合内科医
Q.医師を志した動機をお聞かせください。
高校時代の私は医学部に行くことは考えていませんでした。そのことを父に知られたとき、医学部か歯学部以外の道を選ぶのであれば勘当だと、烈火のごとく叱られました。二者択一のなかで、反骨精神から歯科医だった父とは違う道を選ぼうと決意し、最難関である東京の国立大学歯学部に合格しましたが、同じ都内の医学部へ進学させてもらいました。父への反骨心を抱きながらも、大学では父も学生時代に所属していた柔道部に入部しました。
とにかく厳しい父親でした。父親が話しているときに、腕組みをすることは許されませんでした。ただ今考えると、医学部へ進学させてもらい、現在の仕事に生きがいを感じられていることに感謝しています。
Q.専門になさった臨床検査医学とはどのようなものですか?
当時の臨床病理学教室(現在は臨床検査医学分野に名称変更)は、どの診療科の検査にも関わるところに魅力を感じました。内科を広く学びたかったので、全般が見られるという理由で入局しました。血友病をはじめとする出血傾向の患者さんを診ることが多く、抗体があって血液製剤が効かない患者さんにも使えるブタの第VIII因子を研究していました。そのため、2年間アメリカに留学しました。
大学に戻り、臨床面でより幅広く学びたいため、臨床病理学の教授が部長を務める中央検査部の各部門を、自らの意思で巡回し関わりを持つように努めました。検査技師さんたちの技量によってその結果の迅速性や意味合いが大きく影響する臨床の奥深さを体験しました。ある日、細菌検査室の技師さんから耐性菌に関する院内の感染対策ガイドラインがないことで相談を受け、検査技師、薬剤師、看護師、そして医師らにも加わってもらい、ワーキンググループを作りました。ガイドラインを作り、感染症対策室を築いて、最終的には大学病院に感染制御部門が確立されるに至りました。
Q.開業に到った経緯をお聞かせください。
大学を退職したのは、身体的な面から通勤が困難になったからです。2010年に退職してから2015年に開業するまで、市中病院、老健、グループホーム等への訪問診療など、大学病院では味わえない多くの診療経験を積みました。
その頃、母が変形性股関節症で動けなくなって老人保健施設へ入所し、父も認知症を発症し要介護状態になったので母と同じ老健に入所させてもらうことになりました。私はそこの施設長になって介護施設での医療や介護の実態を経験させてもらいました。その後、父が誤嚥性肺炎を起こして病院へ入院し、母も大腸がんが見つかって同じ病院へ入院したため、老健を辞めてその病院へ移りました。そこでグループホームへの訪問機会があり、認知症について学ぶことが多くなりました。しかし、認知症に関するガイドラインを読んでも目の前の患者さんに対しての具体的な道しるべにはなりませんでした。
その頃出会ったのがコウノメソッドです。具現化しやすく、実際に現場で試してみると確かに効果があります。ぐったりしていた人にシチコリン注射を打って、30分もすると意識が明瞭になっているのです。そこからコウノメソッドにはまっていきました。著書を読み、講演を拝聴し、困ったときは河野和彦先生にメールで問い合わせたりしました。
こうして認知症の治療経験を積んだのち、勤務医時代には遂行しきれなかった自分の意思に基づく医療の先を志して開業に踏み切ったわけです。
「物忘れ外来」と「物忘れサポート外来」の違いが意味するもの
Q.このクリニックの特徴を教えてください。
診療科目は内科、皮膚科、臨床検査科で、皮膚科は大学から非常勤の先生に来て頂いています。そのほか、予約制で「物忘れ外来」と「物忘れサポート外来」を設けています。
名称を「かがやきクリニック川口」としたのは、患者さん自身に輝いてもらいたい、輝きのある健康への手助けをしたいと思ったからです。開業を機に、コウノメソッド実践医に登録しました。総合内科医として患者さんを全人的に診察し、臨床検査認定医として検査の結果を正しく生かし、コウノメソッド実践医として認知症の改善にも力を入れています。
身体的な面から、訪問診療は以前のようにはできませんが、医療だけでなく介護の視点からも、患者さんとその家族を支える姿勢は変わりません。「認知症なので薬を出しておきます」ではなく、本人と家族がより良い生活を送れるように、どう介護するかを含めた医療を提供しています。
Q.「物忘れサポート外来」とはどのようなものですか?
「物忘れ外来」は、通常の内科診療の中に予約枠を設けて、認知症が疑われる患者さん本人を診ています。「物忘れサポート外来」は、家族が日頃の看護や介護で困っていることを相談できる家族のための相談室です。自由診療で1回500円いただいていますが、治療はしません。
そこでは、認知症患者さんの看護や在宅介護にも詳しい看護師が相談にあたっています。担当看護師は、勤務医時代から一緒に臨床に携わってきた経験豊富な方で、家族のどんな相談も聞いてアドバイスしています。「物忘れサポート外来」は、認知症の介護でストレスを溜めないためにあるのですから、ご家族だけが来て相談することができます。
介護のことならケアマネジャーに相談すればいいだろうと考えがちですが、看護師に相談すると食事のことや皮膚の発疹や褥瘡のことなど、療養上のアドバイスも受けられるというメリットがあります。
Q.認知症についてどのような考えをお持ちですか?
加齢とともに脳は萎縮していくものなので、誰でも高齢になると脳の機能が落ちてきます。足が悪くなれば杖を使うように、物忘れが多くなって日常生活に不便が生じても、自然と助け合う社会の理解があればいいのです。
認知症は「怖い病気」と考えるのでなく、誰の身にも起こり得る身近な現象だと考えるべきでしょう。本人や家族に「認知症とは認めたくない」「認知症になられると困る」という気持ちが強いと、過度に薬に頼ることになりかねません。ドネペジルをやめることで嚥下障害から回復したケース、リスペリドン中止で車イスが不要になったケースを経験してきました。
抗認知症薬や向精神薬は、多すぎるといい結果を生みません。基本的に薬は少量で始めて少しずつ増やし、適量だと感じたらそこで止めます。特に85歳以上の高齢者になると純粋なアルツハイマー型は少なく複合型が多くなるので、ただアセチルコリンを増やせばいいという考えは危険です。「あれ、嗜銀顆粒性認知症っぽくなってきたな」とか、変化を診ながら細かなサジ加減をしています。
医療と介護で全人的に本人と家族を支える提案をしていきたい
Q.認知症の治療で工夫していらっしゃることは何ですか?
常に家族のことも考えています。「物忘れ外来」に来られた患者さんとお話をしたあと、採血などで診察室を出て行かれたら、必ず家族とコミュニケーションをとる時間に充てます。家族の悩みを聞いて、どうしたらサポートできるかを考えるのです。「物忘れ外来」では、私は初診に1時間、再診でも30分近くはかけるようにしています。ときに次の患者さんをお待たせしてクレームをいただくことがあります。
サプリメントではフェルガードを使っています。予防の話が出たときに紹介する場合と、待合室に置いてあるサンプルに興味を持った人に説明する場合とがあります。「フェルガード100M」は、初めての人には使いやすいサプリなので勧めています。
Q.夫婦仲の大切さを説いていらっしゃいますがなぜですか?
何年も認知症の治療をしていると、家族の関わりが大切だということが身に染みてわかってきます。まずは変化していく病状を家族が受けとめてあげなければなりません。本人と家族との関係性が希薄だと、いい治療はできません。本人がボーッとしているのに家族が何もしてくれなかったり、デイサービスから帰っても別々な部屋にいて会話もないのでは、良くなりようがありません。逆に家族の価値観を押しつけ過ぎるのもよくありません。患者さんが主体性を失って、他人まかせになったら悪化は速まります。
患者さんにはまず、生きがいを持ってもらわなければなりません。人との関わりが薬よりも大切だと思っています。デイサービスで人間関係を豊かにしてコミュニケーションをとり、家に帰ったら家族みんなの関わりが大切です。特に夫婦関係は重要だと感じています。
Q.休日の過ごし方や将来の夢をお聞かせください。
昔は山登りなどもしていましたが、今は音楽鑑賞とスポーツ番組の視聴ぐらいです。将来については、人に喜ばれるのであれば臨床医として働き続けたいと思っています。認知症の患者さんがたくさん来てくださっているので、そんな方々を継続して診ていくことが、今の私の使命と感じています。
60代の半ばになりましたから、例えばクリスマスが来ると、あと何回楽しめるだろうかと考えてしまいます。私より高齢の患者さんには、行事をなるべく楽しみなさいとアドバイスしています。高揚感を味わうことで生活のめりはり、やる気につながっていきます。ハロウィンになると渋谷の街で若者が騒いでいますが、高齢者こそ仮装してパレードを楽しむべきです。高齢になるほど自ら自分の殻を作ってしまい、新しいことに挑戦する意欲が薄れがちです。手をつないでその殻を破ることによって、個々の新しい挑戦は生まれてきやすくなると信じています。
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