ときよしクリニック
時吉浩司院長インタビュー

投稿日:2024.05.28

大阪府羽曳野市で育った時吉先生は、1987年鳥取大学医学部を卒業後、大阪大学医学部脳神経外科に入局した。6年間医局で働いた後、4年間大学院で研究に従事する。医学博士号を取得した後、2003年から「生長会府中病院」脳神経外科部長。
2006年から「りんくう総合医療センター市立泉佐野病院脳神経センター」副センター長などを歴任。2007年藤井寺駅前に「ときよしクリニック」を開業した。
日本脳神経外科学会認定専門医、日本脳神経外科コングレス会員、日本リハビリテーション学会員。脳神経外科医、神経内科医として地域のホームドクターであり続ける時吉院長に、認知症医療の奥深さとやりがいを語っていただいた。(取材日2024年4月16日)

もくじ
藤井寺駅前で地域を見守る脳神経外科、神経内科クリニック
高齢者の認知症にどう向き合っていけばよいか
フェルガードを紹介することで治療の幅が広がる

藤井寺駅前で地域を見守る脳神経外科、神経内科クリニック

Q.医師を志した動機をお聞かせください。

中学高校は公立校で、受験間近まで進路を決めていませんでした。そうしたら高校の担任から、医学部に行くように勧められました。ちょうど母親を交えた三者面談のときです。大阪が地元なので、大学と言えば阪大、京大がありますが、それより鳥取大学の医学部がいいと、その担任は力説するのです。理由は就職難だから。ちょうど「不揃いな林檎たち」というドラマが流行っていました。阪大や京大の普通の学部を出ても、もう一度就職試験を受けなければなりません。それがとてもハードルの高い時代だったので、就職活動をしなくてもいい医学部は確かに魅力的でした。

当時は国立一期校、二期校が廃止され、共通一次試験が始まって数年目。国立大学は一つしか受けられなくなったので、阪大や京大の医学部に少し手が届かなかった私は、近畿圏にあるもう一つの国立大学・鳥取大学医学部の門をくぐりました。鳥取大学の医学部には、のちに女子医大に移られて脳神経外科の重鎮になられた堀智勝教授がいらっしゃいました。

Q.脳神経外科を選ばれたのはどうしてですか?

鳥取大学の医学部を卒業した私は、大阪大学の脳神経外科に入局しました。もともとは神経内科希望だったのですが、阪大に神経内科がなかったのです。神経のことを勉強したければ、脳神経外科か精神科に入局するしかありませんでした。精神科は向いていないなと思った私は、消去法で脳神経外科を選びました。どうして神経内科に関心があったかというと、奥が深いと感じたからです。大学で勉強していても、神経のことはさっぱりわかりません。専門にすれば理解できるのではないかと考え、勉強したいという気持ちが湧きました。

脳神経外科の医局に入った私は、ドラマ「白い巨塔」の世界に身を置くことになりました。あのドラマは大阪大学第二外科を舞台にしているのです。脳神経外科は第二外科から分かれた診療科だったので、ほぼあの世界に身を置いたことになります。その後医局人事で系列の病院へ行くと、朝から晩まで手術漬けになりました。救急病院にいた頃は、年間300件くらい手術をしていました。救急車が来ると、夜も昼も関係ありません。脳卒中(脳出血、脳梗塞、クモ膜下出血など)や交通事故、頭部外傷の患者さんが運び込まれると、手術室に籠りきりになる毎日でした。

Q.臨床を離れて大学院へ入られたときの研究内容を教えてください。

大阪大学の医局に6年間いた後、大阪大学医学部の大学院に入りました。臨床を離れて、4年間研究に没頭する毎日を過ごしたのです。私が大学院に入った頃、研究用のPCR検査装置が出始めました。新型コロナウイルスの流行で大変有名になった、ウイルスや細菌を検査する機械です。研究者が使い始めたので、私はそれを使って脳腫瘍の遺伝子解析などの研究を行いました。そしてその研究で、大学院時代に学位を取りました。その後いくつかの病院に勤務し、「生長会府中病院」で脳神経外科部長になりました。さらに「りんくう総合医療センター市立泉佐野病院脳神経センター」で副センター長になりますが、これらはすべて医局(大阪大学医学部)の人事です。2007年に「ときよしクリニック」を開業し、医局人事を離れて独立することになりました。

高齢者の認知症にどう向き合っていけばよいか

Q.開業に到る経緯と開業してからの変化をお聞かせください。

ここで開業したのは、羽曳野市で育った私は藤井寺市に土地勘があったこと。自分の家も近く、駅前のいい建物が空いていたからです。開業する前は、脳卒中後の後遺症を抱えた患者さんが中心になるのかなと考えていましたが、まったく違いました。圧倒的に多かったのは認知症の人です。それから、あちこち痛いとか痺れるといった神経痛系の人、それから頭痛を訴える人でした。

認知症の人の多さに驚いた私は、急いで認知症の勉強を始めました。そこで出会ったのがコウノメソッド(「名古屋フォレストクリニック」の河野和彦医師が提唱する認知症の薬物療法)です。すぐにコウノメソッドの実践医になった私は、河野先生の本の巻末に実践医として紹介されました。すると京都、奈良、和歌山から患者さんが来るようになりました。登録番号も20番、30番代と若く、大阪での数少ない実践医で、京都、奈良、和歌山には実践医がいなかったからです。勤務医時代も脳神経外科医として認知症を診ていましたが、大病院では検査して診断して薬を出したら終わりです。しかし、クリニックとなるとそうはいきません。症状が消えるまで通って来られます。中核症状より、周辺症状に困っておられるのです。夜中寝ないとか、徘徊するとか、すぐ怒るといった行動心理症状を何とかしてくださいという依頼が多くなります。コウノメソッドがあったから、乗り切れたのだと思います。

Q.このクリニックの特色は何だとお考えですか?

市井の脳神経外科と神経内科です。脳の外科的疾患や神経難病を「町医者」が診るということに尽きます。町医者ですからそれだけではなく、来院いただいた患者さんのさまざまな疾患を診ています。毎週水曜日の午前と午後を往診に充てていますが、これは施設や個人宅を往診しているのです。個人宅はおもにALS(筋委縮性側索硬化症)やパーキンソン病といった神経難病の患者さんで、寝たきりの方や通院できない方を神経内科医として訪問しています。火曜と水曜の午後に「予約診」の時間を設けているのは、認知症の診察をするためです。認知症は最初が大切で、検査や説明に時間がかかります。こちらからの説明もたくさんありますが、本人やご家族の気持ちを受容するために、十分時間をかけて話を聞くようにしています。

Q.認知症の治療で心がけていることは何ですか?

コウノメソッドを忠実に行っているので、薬のサジ加減には工夫しています。例えば抗認知症薬のアリセプトは興奮系の薬剤なので、よそで5㎎や10㎎を処方されて易怒(病的な怒りっぽさ)が出ている患者さんは、減らしたり止めたりしてあげると大人しくなります。認知症の薬物療法で大切なことは、少量から始めて様子を見ることです。うちのクリニックでは改訂長谷川式などの知能検査や画像検査を行い、半年ごとに認知機能の評価を行っています。それによって今出している薬が効果あるならそのまま維持し、効果がなければ増量します。抗認知症薬には2週間や4週間で増やさなければならない「増量規定」がありますが、効果があるのに増やす必要はありません。特に高齢の患者さんの場合、薬は少なめに使うように心がけています。そのため、よく薬局から電話がかかって来るのです。「先生、薬が少な過ぎますよ。増やさなければならないんじゃありませんか」って。うちは駅前なので門前薬局はなく、ドラッグストアで調剤してもらいます。初めての薬剤師さんなどは、うちの少量投与に驚いて、よく電話してきます。

フェルガードを紹介することで治療の幅が広がる

Q. サプリメントはどのようなものを使っていらっしゃいますか?

アルツハイマー型認知症などには完全に治癒させる薬がありません。できることは全てやったほうがいいという考えから、私は患者さんやご家族にサプリメントを勧めています。多くはグロービアさんのフェルガード類ですね。配合によっていろいろな種類がありますが、フェルガード100Mが合う人が一番多いようです。興奮して暴れていた患者さんが、フェルガード100Mで落ち着かれたケースをたくさん体験しました。そのほか。LAも100Mハーフも使います。使い方としては、興奮している患者さんに抑制系の向精神薬とフェルガード類を同時に飲んでもらうのです。

大人しくなってきたら、精神系の薬は止めてフェルガードだけにする、という方法をよく取ります。精神系の薬はADLを落とすので、止められるなら止めたいと思いながら処方しています。しかし、ただ止めるのは心配だというとき、フェルガードと併用していれば、安全に精神系の薬を減らしていけるのです。患者さんにお勧めする方法は、パンフレットなどで説明し、グロービアさんのフリーダイヤルを教えて、直接購入してもらう方法です。次に診察に見えたとき、「何をどのくらい飲んだか」を聞いて、サプリの種類と量、効果を診ています。

Q.認知症以外にはどのような疾患を診ていらっしゃいますか?

専門とする疾患は、頭痛、めまい、耳鳴り、手足のしびれなどです。これらは、即座にCT等の検査を行います。また、必要に応じて注射、点滴、内服を行い、生活習慣改善の相談も受けています。また、高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病は、超音波による動脈硬化の評価、治療、生活習慣の指導を行っています。大切なことは、脳卒中の発症や再発を未然に防ぐことです。原因となる高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満、喫煙などの治療を通じて、地域の皆様の生活の質を上げるお手伝いをしています。これらの専門とする疾患のうち、患者さんを悩ませているのが片頭痛です。一般の頭痛と片頭痛は、分けないといけません。片頭痛は動くと痛む、動くと響く、大きな音がすると痛む、動けなくなるという特徴を持っています。そのため、みんな寝込んでしまいます。学校や仕事に行けなくなるので、専門的な治療が必要です。このような症状にも当院で対応しています。

Q.今後の夢や希望をお聞かせください。

藤井寺駅前に開業して17年経ちますが、これからも町医者として地域の住民の皆様の力になりたいと考えています。市井の脳神経外科医、神経内科医として、認知症の治療にも継続的に尽力していく所存です。

 

ときよしクリニック

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