認知症患者におけるドネペジルの弊害

日本では、1999年にドネペジルが承認されて市販されるようになりました。しかし、期待されたほどの認知機能低下の抑制効果はなく、一方、精神症状・行動障害(BPSD)の悪化が目立ちました。その症例を提示します。
うつ病の女性(長女)
認知症の母親が、夕方からの近隣徘徊・夜間不穏により、長女は疲弊して、抑うつが悪化していました。
そこで、母親が服用していたドネペジルを他医の主治医に中止してもらったところ、それらのBPSDはすべて改善して、長女も笑顔で元気になられました。
BPSDが激しい認知症患者では、しばしば抗精神病薬(リスペリドン、クエチアピン)や漢方薬(抑肝散)が投与されますが、ドネペジルを服用している場合、それを中止すると、ほとんど、BPSDが改善します。
91歳の女性
2年前は、長谷川式認知症スケールは28点で、年齢相応の認知機能低下でした。その後、通院されていませんでした。
ところが、半年前から、薬の管理ができなくなってきたため、ご家族が認知症疾患医療センターの医療機関を受診させました。アルツハイマー型認知症と診断され、定番のドネペジルが処方されました。すると、もの盗られ・被害妄想、不眠が出現して、介護負担が増大しました。
おかしいと思ったご家族がネット検索し、ドネペジル服用が問題ということに気付いて、ドネペジルを中止したところ、妄想・不眠は1週後から消失して穏やかになりました。
すばらしいご家族の判断ですが、このようなことはしばしば起こっています。もの忘れがあったら、認知症疾患医療センターに通院していれば安心かというと、そうではない場合が結構あります。
また、ドネペジルの治験では86歳以上の方は対象から除外されましたので、超高齢者の患者さんにおけるドネペジルの安全性は確立されていません。
まとめ
このような症例は氷山の一角です。フランスでは、すでにドネペジルを保険診療から削除しています。
認知症が疑われた場合、ドネペジルなどの抗認知症治療薬を使用せず、まずはコレステロール低下薬、プロトンポンプ阻害薬(逆流性食道炎の薬)、降圧剤などを含めた処方薬の減薬・中止の検討を行い、プロテイン・MCTオイル・フェルガードなどの摂取が推奨されます。

宮崎医科大学医学部卒業。独立行政法人国立病院機構菊池病院(熊本)元院長。熊本県の認知症中核病院の専門医として、熊本県全域から訪れる多くの認知症患者さんを診療され、平成30年に熊本駅前木もれびの森心療内科精神科を開院。食事・サプリメント指導により患者さんの栄養状態を改善し、お薬の量を最小限にされ、精神面の安定・改善をめざす、栄養療法を主体とした副作用の少ない「やさしい医療」を実践されている。