脳血管性認知症(VaD)の症状と経過
脳血管性認知症(VaD:vascular dementia)は、別名「まだら認知症」ともいいます。比較的しっかりしてみえるのに、記憶がところどころ抜け落ちていたり、意識がはっきりしているときと反応が鈍いときの波があったりするのが特徴です。ここでは、脳血管性認知症(VaD)に特有の症状と、その経過を紹介します。
1日〜数日の周期で覚醒度に波があるのが特徴
脳血管性認知症(VaD)は、「まだら認知症」ともよばれています。これは、アルツハイマー型認知症(ATD)などでは、認知機能が全般的に低下するのに対し、認知機能がまだら状に保存されるためです。
たとえば、脳血管性認知症(VaD)では、新しいことを覚える力は低下していても、理解力や判断力は保たれています。アルツハイマー型認知症(ATD)に比べて、人格の核心も保たれる傾向があります。
また、脳血管性認知症(VaD)では、意識レベル(覚醒度)に波があるのも特徴です。意識がはっきりして活動的なときと、ボーッとして反応が鈍いときがあり、これが1日から数日の周期で変化します。
脳血管性認知症(VaD)に特有の症状
脳血管性認知症(VaD)の症状は病変部位によって異なりますが、下記の5つが代表的です。
1. 感情、欲求の抑制障害
場違いに泣いたり笑ったりする「感情失禁」を起こす
感情を抑えることができず、突然笑ったり、怒ったり、泣いたりする「感情失禁」が起こります。また、欲求をコントロールできず、物を無制限に欲しがったり、金銭を浪費したりします。
2. 巣(そう)症状、仮性球麻痺
特定の病巣に対応して麻痺などの症状が出る
脳の病巣に対応して、片麻痺や失語、失行・失認などの症状が現れます。嚥下や発語に関する神経が障害される仮性球麻痺により、物をうまく飲み込めない嚥下障害や、言葉を正しく発音できない構音障害の症状が現れます。
3. 実行機能障害
計画→意思決定→実行のプロセスが障害される
遂行機能障害ともいいます。献立を決めて買い物に行き、段取りを考えて調理するというような、計画遂行の一連の作業ができなくなります。
4. 注意障害
脳血流が低下して集中力が保てない
前頭葉の血流や代謝が低下するために、対象に適切に注意を向けることができず、間違いが増えます。また、疲れやすくなります。
5. アパシー
うつ病に似た印象だが悲壮感に乏しい
自発性や意欲の低下した状態をアパシーといい、脳血管障害後によくみられる症状です。うつ病と似ていますが、うつ病とは異なり、悲壮感があまりないのが特徴です。
脳血管性認知症(VaD)の代表的な経過
アルツハイマー型認知症(ATD)は初期から記憶障害が現れ、徐々に進行しますが、脳血管性認知症(VaD)では、歩行障害や意欲低下などが先に現れます。経過は、脳血管障害の再発や感染症の合併、ほかの認知症との合併、頭部打撲、大腿骨骨折などをきっかけに階段状に進行し、会話の障害、記憶障害などの症状も現れます。
また、アパシー(自発性や意欲の低下)が強い場合は、引き込もり生活になりやすく、社会的な刺激が減るために、病状が悪化する場合もあります。
アルツハイマー型認知症(ATD)との比較
アルツハイマー型認知症(ATD)と脳血管性認知症(VaD)では、下図のような違いがあります。ただし、合併例も多く、鑑別が難しい場合もあります。