神経心理学的検査➁他の疾患との鑑別診断
認知症以外でも、認知症に似た症状が出る疾患があります。他の疾患との鑑別は、認知症診断には欠かせません。とくに問題となるうつ病は、必要に応じて神経心理学的検査も活用し、鑑別診断をします。
「認知症」と「仮性認知症」の違い
認知症の中でも、とくにレビー小体型認知症の患者には、暗く、無気力なうつ傾向が強く見られます。そのため、同様の症状が出ると認知症が疑われますが、認知症の疑いで受診した人の中には、認知症ではなくうつ病が隠れているケースがあります。
うつ病による認知機能低下を「仮性認知症」といい、認知症との鑑別が重要です。
表情が暗く、不眠や疲労倦怠感、頭痛、食欲低下などの症状を訴える、また、朝は調子が悪く、夕方になると元気になるのはうつ病の特徴です。
さらに、認知機能の低下を測る、神経心理学的検査である改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)や時計描画検査(CDT)の点数が高く、CT検査などの画像検査で異常がなければ、うつ病の可能性は高まります。
高齢者のうつ病評価尺度GDS-S-J
うつ病の診断には、以下に記載した、世界的に使われている高齢者のうつ病評価尺度の日本版であるGDS-S-J(Geriatric Depression. Scale-Short Version-Japanese)も有用です。
1~15の設問に「はい」「いいえ」で回答し、「はい」が0~4個であれば「うつ症状なし」。5~10個であれば「軽度のうつ病」。11~15個であれば「重度のうつ病」と判定されます。
1.あなたは、あなたの人生にほぼ満足していますか?
2.これまでやってきたことや、興味があったことの多くを止めてしまいましたか?
3.あなたは、あなたの人生は空しいと感じていますか?
4.しばしば、退屈になりますか?
5.あなたは、たいてい機嫌がよいですか?
6.あなたに、何か悪いことが起ころうとしてるのではないかと心配ですか?
7.たいてい、幸せだと感じていますか?
8.あなたは、しばしば無力であると感じていますか?
9.外出して新しいことをするよりも、自宅にいるほうがよいと思いますか?
10.たいていの人よりも、記憶が低下していると思いますか?
11.現在、生きていることは、素晴らしいことだと思いますか?
12.あなたは、現在のありのままのあなたを、かなり価値がないと感じますか?
13. あなたは、元気いっぱいですか?
14. あなたの状況は、絶望的だと思いますか?
15. たいていの人は、あなたよりよい暮らしをしていると思いますか?
※「Geriatric Depression Scale(GDS),Recent evidence and development of a shorter version.」Sheikh JI, Yesavage JA. 1986/「高齢者用うつ尺度短縮版―日本版(Geriatric Depression Scale-Short Version-Japanese, GDS-S-J)の作成について」 杉下守弘・朝田 隆、2009より引用
せん妄との合併率が高い脳血管障害
うつ病とともに高齢者に多いのが「せん妄」の症状です。急激に発症する軽度の意識障害で、落ち着きがなく、怒りっぽくなったり、暴言、幻覚などが現れます。認知症があるとせん妄を発症しやすく、とくに脳血管が閉塞したり、破れたりすることで生じる脳血管性認知症と合併しやすい特徴があります。
認知症のタイプ別にせん妄の合併率を見ると、以下の通りです。
<認知症のタイプ別・合併のせん妄率>
レビー小体型認知症+脳血管性認知症・・・40.0%
脳血管性認知症・・・34.4%
レビー小体型認知症・・・25.0%
アルツハイマー型認知症+脳血管性認知症・・・21.7%
アルツハイマー型認知症・・・10.8%
前頭側頭葉変性症・・・0%
※『日常診察に必要な認知症症候学』池田 学編著、2014より引用
脳血管性認知症とせん妄の合併率が最も高く、ほかの脳変性疾患に脳血管障害が加わると、せん妄の合併率がさらに高まります。
せん妄と認知症の見分け方
せん妄と認知症の鑑別のポイントとなるのが、症状の変動です。一般的に、認知症はゆっくりと発症し、症状の変動が少ないのに対し、せん妄は数時間~数日間で急に発症し、夕方や夜間に悪化するのが特徴です。また、薬剤や環境が関与したり、身体疾患などをきっかけに発症するケースが多いです。
逆に、認知症の患者で、病状が急激に変動したり、日常生活の動作が低下した場合は、せん妄の合併が疑われます。
上の表がせん妄と認知症の鑑別の要点をまとめたものです。
それぞれの特徴を比較し、治療可能なせん妄を見逃さないことが重要です。