中核症状を知る 見当識の障害について

投稿日:2023.06.08

認知症の人は、状況に合わない行動をとることがよくあります。これは「見当識障害」といって、状況を把握する力が低下することによって現れる症状です。ここでは、中核症状のひとつ「見当識障害」の種類や症状について紹介します。

もくじ
見当識障害の種類と発症の背景
時間的見当識の障害
地誌的見当識の障害
人物に対する見当識障害
主な認知症における見当識障害の症状

見当識障害の種類と発症の背景

見当識障害(失見当:しつけんとう)とは、時間や空間、周囲の人物を認識する能力が低下した状態をいいます。認知症の症状としては、現在の年月日や時間がわからなくなる「時間的見当識の障害」、場所や空間が識別できなくなる「地誌的見当識の障害」、家族や親しい人物を認識できなくなる「人物に対する見当識障害」があります。

見当識障害があると、今がいつで、どこにいるのか、相手が誰なのかがわからなくなります。よく知っている場所で道に迷う、家族や親しい友人なのに誰なのかがわからなくなるといった症状が現れます。

見当識障害が発症する背景には、同じく中核症状である「記憶障害」や「判断力障害」などの発症・進行があります。また、下図で紹介する「注意障害」の影響もみられます。

注意障害は、選択性、分配性、持続性、方向性といった注意能力の障害で、対象に適切に注意を向けることができない状態をいいます。注意障害があると、脳に入る情報を選択したり、集中力を持続したりしにくくなるため、見当識障害につながりやすくなります。

時間的見当識の障害

時間的見当識の障害では、今現在の年・月・日、あるいは時間や季節がわからなくなる症状が現れます。また、経験や出来事に対する前後の時間軸がわからなくなります。神経心理学的検査「MMSE(エムエムエスイー)」では、「今年は何年か?」などの質問に答えることができません。

主な症状

⚫︎今日が何年何月何日なのかわからない
⚫︎朝食をとったかどうかわからない
⚫︎出来事の記憶があっても、いつのことかわからない
⚫︎季節に合わない服装をする など

地誌的見当識の障害

地誌的見当識の障害には、「街並失認(まちなみしつにん)」と「道順障害」があります。街並失認では、建物・風景を識別できなくなって、道に迷います。いつも利用している駅、通い慣れた道の風景も認識できず、今いる場所自体がわからなくなります。一方、道順障害では、自分のいる場所や目標の建物などが認識できますが、目的地との位置関係がわからず、進むべき方向を見失ってしまう症状です。

下表のように、旧知の場所か初めての場所かによっても、症状の出方が異なります。

 

人物に対する見当識障害

人物に対する見当識障害は、家族や親しい人物を認識できなくなる症状です。自分に対する見当識(自己見当識)が損なわれることもあります。鏡に写った自分の姿に話しかける「鏡徴候」などの人物誤認も起こります。アルツハイマー型認知症(ATD)やレビー小体型認知症(DLB)で特によく現れる症状です。

主な症状】

鏡徴候

鏡に映った人物像を自分だと認識できず、話しかけたりする症状です。テレビに映る人物に反応する場合は「テレビ徴候」といいます。

 

幻の同居人症候群

誰かが自分の家の押し入れに隠れているなどといい、その存在を信じ込みます。幻視によるものと、妄想性の誤認(何らかの外部刺激に対する知覚誤認とそれに伴う妄想)によるものがあります。

 

カプグラ症候群

身近な人物が、赤の他人にすり替わっていると主張する症状です。反対に、自分がよく知る人物が別人になりすましていると主張するものを「フレゴリ症候群」といいます。

 

主な認知症における見当識障害の症状

見当識障害は軽度認知障害(MCI)には現れません。見当識障害の有無は、アルツハイマー型認知症(ATD)の初期診断において、重要な指標とされています。

アルツハイマー型認知症(ATD)では、まず「時間的見当識の障害」が現れ、その次に「地誌的見当識の障害」が出現します。「人物に対する見当識障害」は、進行に伴って現れ、悪化していきます。

また、アルツハイマー型認知症(ATD)では、頭頂葉と側頭葉が特に侵されやすいため、場所・空間内で自分の位置を把握する能力が損なわれます。初期の段階から「地誌的見当識の障害」の症状がしばしば現れ、見知った場所でもたびたび「迷子」になるのは、これが原因です。周囲の予想以上に遠方まで「徘徊」し、保護されるケースも多数あります。

レビー小体型認知症(DLB)では、見当識障害は比較的軽度です。ただし、「幻覚」や「失認」が原因となって、「人物に対する見当識障害」や「地誌的見当識の障害」が生じることがあります。

脳血管性認知症(VaD)では、空間の右または左半分に注意が向かない「半側(はんそく)空間無視」の影響により、見当識障害が生じやすくなっています。

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