行動症状を知る 徘徊/多動の原因と症状について

投稿日:2023.06.08

認知症の数ある行動症状のなかでも、「徘徊」は介護者に大きな不安と負担を強いるものです。ここでは、どこともなく歩き回る「徘徊」の原因と症状、および同じルートを歩き続ける「周徊」などにつながる行動症状「多動」の原因と症状について紹介します。

もくじ
中核症状が引き起こす症状に不安や焦燥が加わって起こる「徘徊」
「多動」の原因となるピック病の症状
夕方に周辺症状を悪化させる「夕暮れ症候群」

中核症状が引き起こす症状に不安や焦燥が加わって起こる「徘徊」

「徘徊」とは、どこともなく歩き回る状態のことをいいます。認知症の場合は、途中で目的を忘れたり、道がわからなくなったりして、迷子になりやすい傾向があるため、特に注意が必要です。安全面での心配も加わり、行動を見守る介護者に多大な負担がかかる周辺症状のひとつです。

徘徊は、判断力障害や見当識障害などの症状に、これらの影響で的確な状況判断ができないことから生じる「不安」や「焦燥」が加わることで起こります。一時的に意識が混乱する「せん妄」による注意力の低下、「夕暮れ症候群」なども、徘徊のきっかけとなります。

アルツハイマー型認知症(ATD)では、発症初期から徘徊の症状が現れ、中期以降には頻繁に見られるようになります。これは、早い段階から頭頂葉と側頭葉が特に侵され、場所・空間内で自分の位置を把握する能力が損なわれることが原因です。見知った場所でもたびたび迷子になります。

脳血管性認知症(VaD)では、意識障害の一種である「夜間せん妄」による、夜中の徘徊が多くみられます。

レビー小体型認知症(DLB)では、いわゆる徘徊とは異なりますが、一時的に意識が混乱する「せん妄」や現実にないものが見える「幻視」の症状をきっかけに、家中を歩き回ることがあります。さらに、睡眠中も筋活動が抑制されず、夢の内容に応じて暴言・暴力が生じる「レム睡眠時行動障害(RBD)」によって、睡眠中に大声をあげる、ベッドの上で踊るなどの行動もみられます。

このように、認知症のタイプによって、徘徊に至る原因は異なります(下図参照)。

前頭側頭型認知症(FTD)をはじめとする前頭側頭葉変性症(FTLD)では、特徴的な症状である「常同・強迫行動」のひとつとして、周徊(または周遊)が現れます。毎日、同じルートを早足で何度も繰り返し歩き続けますが、アルツハイマー型認知症(ATD)と異なり、道に迷うことはほとんどありません。

問題は、前頭連合野の障害で、脳のほかの領域に対するコントロールが効かなくなる「脱抑制」を伴う点です。その影響で、歩行中の信号無視や、他人を押しのけても意に介さないなどの行動を起こします。車で高速道路を逆走するといった、危険行為におよぶこともあります。

「多動」の原因となるピック病の症状

前頭側頭型認知症(FTD)95%以上を占めるピック病では、前頭葉によるコントロールが失われることが原因で、下記のような症状がみられ、「多動」による落ち着きのなさが、顕著に現れます。

1.反復行動、保持的行動
同じ行動を繰り返し、儀式的に同じ手順を厳守します。何回も同じルートを歩き続ける「周徊」のほか、同じものばかり食べたり同じメニューばかり作ったりする「常同的食行動異常」、日に何度も入浴するなどの「強迫行動」が目立ちます。手を叩く、口をすぼめる、膝をこするなど、単純動作の反復も多くみられます。

 2.転導性(でんどうせい:被影響性)の亢進
外的刺激に容易に反応するため、すぐに注意がそれてしまいます。診療中に急に退室する「立ち去り行動」のほか、目についたものの名称、相手の動作などをいちいち口に出す「強迫的言語応答」などが代表的な症状です。

 3.時刻表的生活
前頭側頭型認知症(FTD)の初期症状のひとつです。時刻表のように決まった時間に、決まった行動をとります。たとえ周囲が制止しても、耳を貸すことはありません。

夕方に周辺症状を悪化させる「夕暮れ症候群」

徘徊をはじめとする行動・心理症状(周辺症状)は、夕方〜夜間に悪化しやすい傾向があります。これを「夕暮れ症候群」といい、体内時計に乱れが生じる「概日(がいじつ)リズム障害」が最大の原因です。

認知症を発症すると、概日リズムをつかさどる視交叉上核(しこうさじょうかく)の神経細胞が減少します。これに、施設入所や閉じこもりによる受光量低下といった環境要因、記憶力や判断力の低下からくる不安・焦燥といった心理要因が加わると、概日リズムはますます乱れ、「夕暮れ症候群」となって現れます。

徘徊などの症状を悪化させないためには、まず、昼夜逆転の生活を改善することが重要です。

 

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