心理症状を知る 幻覚/妄想について
存在しないものがリアルに見えたり、被害妄想的になったりするのも、認知症の心理症状のひとつです。精神疾患との誤診例もあるため、診断には注意が必要です。ここでは認知症の心理症状「幻覚」と「妄想」について、その原因と症状を紹介します。
レビー小体型認知症(DLB)の代表的症状である「幻覚」
「幻覚」は、認知症の初期から中期にかけて出現する心理症状です。現実にないものが見える「幻視」と、聞こえないはずのものが聞こえる「幻聴」があり、特に多いのは「幻視」です。
レビー小体型認知症(DLB)では、一次視覚野のある後頭葉が障害されやすいため、約8割に幻覚とその関連症状がみられます。
幻覚が起こるメカニズムとしては、第一に後頭葉の障害があります。さらにドパミン、アセチルコリンなど神経伝達物質の不均衡、上行性網様体賦活系(じょうこうせいもうようたいふかつけい)の障害など、脳幹を起点とする神経系の異常が関係しています。
アルツハイマー型認知症(ATD)では、幻覚よりも妄想の症状が多くみられますが、中期以降になると、幻覚もやや増えます。
脳血管性認知症(VaD)でみられる幻覚は、障害部位によるものと、脳機能の全般的低下によるものがあります。前者には、視覚野を含む後頭葉の病変や、脳幹の病変による幻視、後者には、せん妄に伴う幻覚が該当します。
レビー小体型認知症(DLB)における幻覚・誤認・妄想症状
レビー小体型認知症(DLB)では、「幻覚」とそれに関連する多様な症状が現れます(下図参照)。「幻覚」で最も多いのは人物で、「青い服の男の子と若い女の人がいる」など、リアルで具体的に描写されるところが特徴的です。また、壁のシミが人の顔に見えるといった「誤認」の症例も多くあります。
「誤認」は、外部刺激に対する知覚錯誤とそれに伴う妄想によるものです。知覚対象がある点が、「幻覚」とは異なります。
認知症の妄想は記憶障害が原因の「二次妄想」
「妄想」には、一次妄想と二次妄想があります。「一次妄想」は、統合失調症などの精神疾患にみられ、動機も脈絡もない事柄を確信するタイプの妄想です。「二次妄想」は、記憶障害によって財布の置き場所を忘れたことを「誰かに盗られた」というように、第三者から見て、妄想の発生や内容が理解できるタイプをいいます。認知症の妄想はこれにあたります。
また、認知症の妄想は、対象が家族や介護者など身近な人であることも特徴です。
妄想は、アルツハイマー型認知症(ATD)、レビー小体型認知症(DLB)、脳血管性認知症(VaD)でみられますが、中でもレビー小体型で多く発症します。
アルツハイマー型認知症(ATD)で妄想が起こるのは、視覚情報などのインプットには問題がなくても、その情報を処理する連合野が強く障害されること、さらに、その処理に情報を付与する扁桃体(へんとうたい)や海馬が障害され、情報が偏ってしまうことが原因だと考えられています。
レビー小体型認知症(DLB)の妄想には、ドパミン神経系の異常や、それに関連して起こる「幻視」「妄想性誤認(妄想を伴う見当識障害)」が重なり合って起こります。
認知症に代表的な4タイプの妄想
認知症でよくみられる4つの妄想について、その症例を紹介します。最も多いのは「物盗られ妄想」、次いで「見捨てられ妄想」が続きます。「迫害妄想」「嫉妬妄想」は、レビー小体型認知症(DLB)に多く、それに比べると他の病型での発症は多くありません。
1 物盗られ妄想
例「引き出しの財布を娘に盗られた!」
アルツハイマー型に多く、初期~中期にみられます。自分の大切なもの、財布、通帳、印鑑などが盗まれたと確信します。記憶障害だけでなく、病識の欠如や不安など、複数の要素が絡み合って発症します。特に脳室の拡大度が低い人に多いという報告があります。
2 迫害妄想
例「このままでは嫁に殺される!」
自分と敵対する人物・組織から危害を加えられる、陥れられるという妄想です。実際に武装したり、警官に駆け込んだりします。毒を盛られるという妄想から、食事や薬を拒否することもあります。
3 嫉妬妄想
例「夫の浮気現場をこの目で見た!」
配偶者の不貞を確信し、配偶者を責めるなどの行動をとります。レビー小体型認知症(DLB)に特有の「妄想性誤認(妄想を伴う見当識障害)」から、不貞の現場を見たと思い込んでしまいます。劣等感なども発症の一因となります。
4 見捨てられ妄想
例「施設に置き去りにされる」
「家族に見捨てられる」と確信する妄想です。自分の状況をある程度察することができるケースで、しばしば認められます。家族の重荷になっているという認識がもとで生じ、介護者を責める症状となって現れます。