最新の認知機能改善薬とその作用
認知症は長らく、治療法がない病気とされていました。1999年、世界初の認知機能改善薬が登場。それ以降、認知症の治療法は日に日に進歩しています。ここでは、現在日本で使用できる最新の認知機能改善薬について紹介します。
認知症に「治療」の概念を生んだ認知機能改善薬
従来、認知症の進行を止める治療法はなく、徘徊や妄想などの周辺症状を、薬で抑えるしか手立てがありませんでした。当時の医療では、「どう治療するか」よりも「どのように介護・ケアするか」が重視されていたといえるでしょう。
そんな状況のなか、1999年に登場したのが、世界初の認知機能改善薬「ドネペジル」です。これは日本で開発された薬で、記憶障害などの中核症状に作用し、認知症の進行を遅らせる効果があります。画期的な発明でしたが、これに続く新薬が登場せず、以降の12年間、日本で使える認知機能改善薬はこの1剤のみでした。
2011年、新たに3剤の認知機能改善薬と、神経細胞を保護する薬剤1剤が認可されました。これにより薬剤使用の選択肢が格段に増え、現在、認知症は「どう治療するか」という段階へ進んでいます。
認知機能改善薬・4剤の比較
現在、日本で使用できる認知症改善薬は4剤。適応する認知症の病型や、薬の形状(剤型)、用法などが、それぞれ異なっています。医師は、重症度や症状、肝臓や腎臓の機能、服薬管理の状況などに応じて、薬を選択しています。
コリンエステラーゼ阻害薬が作用するメカニズム
神経伝達物質・アセチルコリンは、運動指令を伝えるほか、脳の興奮度合いを高めたり、認知機能を保ったりする働きがあります。このアセチルコリンを伝達物質とする神経細胞「コリン作動性ニューロン」は、海馬周辺から大脳皮質にかけて、広く分布しており、その中には、記憶や学習に関与する情報伝達ルートも含まれています。
認知症では、脳内のアセチルコリン濃度が低下するため、コリン作動性ニューロンがうまく働かなくなります。そのため、認知機能が低下し、記憶障害が進行すると考えられています。
コリンエステラーゼ阻害薬は、アセチルコリンを分解する酵素(コリンエステラーゼ)の働きを阻害し、記憶・学習にかかわるアセチルコリンの濃度を保つ作用があります。アセチルコリンが増えると、コリン作動性ニューロンが活性化し、認知機能の改善が期待できます。
現在使用できるコリンエステラーゼ阻害薬は、「ドネペジル」、「リバスチグミン」、「ガランタミン」の3剤です。「リバスチグミン」、「ガランタミンは」、コリンエステラーゼ阻害に加え、別の作用も併せ持っています。
コリンエステラーゼ阻害薬の作用1
<共通>
シナプス間隙(神経細胞と神経細胞のすき間)で、アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼをブロックします。
コリンエステラーゼ阻害薬の作用2
<リバスチグミン>
シナプス間隙(神経細胞と神経細胞のすき間)で、アセチルコリンを分解するブチルコリンエステラーゼをブロックします。
コリンエステラーゼ阻害薬の作用3
<ガランタミン>
アセチルコリンを産出する神経細胞内に、陽イオンの流入量を増やし、アセチルコリンの放出量を増大させます。
神経保護薬(NMDA受容体拮抗薬)が作用するメカニズム
アルツハイマー型認知症(ATD)の脳では、記憶・学習にかかわるグルタミン酸神経系が過剰に活性化し、神経細胞を傷つけています。
神経保護薬(NMDA受容体拮抗薬)は、通常時はNMDA受容体(NMDA型グルタミン酸受容体)に結合して、グルタミン酸の過剰流入をブロックし、神経細胞を保護します(下図右参照)。一方、下図左のように、記憶や学習にかかわる情報が届いたときは、受容体から離れる性質があるため、グルタミン酸とともに適切に情報を取り込むことができます。
現在使用できる神経保護薬(NMDA受容体拮抗薬)は「メマンチン(商品名:メマリー)」1剤です。