レビー小体型認知症(DLB)の薬物治療について
レビー小体型認知症の特徴として、身体症状を持つ方が多くいるため、認知機能改善薬だけで症状改善を図ることは難しいとされています。コウノメソッドでは、新たな薬の選択を解説しています。
一般的な薬物治療の場合
嗅覚や幻視障害などの周辺症状、身体症状が目立つレビー小体型認知症。一般的な薬物治療には、幻覚、妄想、無気力、うつ状態に対してコリンエステラーゼ阻害薬が用いられています。体が自由に動かせなくなり、筋肉の強張りなどが見られるパーキンソニズムの場合、パーキンソン症候群治療薬のレボドパが有効とされています。
一方、レビー小体型認知症の特徴として表れる睡眠障害には、ベンゾジアゼピン系睡眠導入薬が一般的な治療薬とされています。ただし、傾眠や転倒などの副作用があるため、注意が必要です。暴言や暴力が出てしまうレム睡眠時行動障害(RBD)には、クロナゼパムが有効とされていますが、薬剤過敏性があるため、ごく少量からの投与を推奨しています。
以下の一覧では、現在、レビー小体型認知症に推奨されている薬剤ですが、多くは科学的な根拠が低いため、今後の研究に期待が寄せられています。
■ガイドラインにおける推奨薬剤と推奨度
<認知機能障害>
・ドネペジル(認知機能改善薬)
推奨グレード B/エビデンスレベル Ⅳa
・リバスチグミン(認知機能改善薬)
推奨グレード B/エビデンスレベル Ⅱ
・ガランタミン(認知機能改善薬)
推奨グレード なし/エビデンスレベル Ⅳa
・メマンチン(認知機能改善薬)
推奨グレード なし/エビデンスレベル V
<周辺症状(BPSD)>
・ドネペジル(認知機能改善薬)
推奨グレード B/エビデンスレベル Ⅳa
・リバスチグミン(認知機能改善薬)
推奨グレード B/エビデンスレベル Ⅱ
・クエチアピン(非定型抗精神病薬)
推奨グレード C1/エビデンスレベル V
・オランザピン(非定型抗精神病薬)
推奨グレード C1/エビデンスレベル Ⅱ
・抑肝散(よくかんさん/漢方薬)
推奨グレード C1/エビデンスレベル Ⅳa
・リスペリドン(非定型抗精神病薬)
推奨グレード なし/エビデンスレベル V
<レム睡眠時行動障害(RBD>
・クロナゼパム(抗てんかん薬)
推奨グレード C1/エビデンスレベル V
・ドネペジル(認知機能改善薬)
推奨グレード C1/エビデンスレベル V
<パーキンソニズム>
・レボトバ(パーキンソン症候群治療薬)
推奨グレード C1/エビデンスレベル Ⅵ
<起立性低血圧>
・ドロキシドパ(パーキンソン症候群治療薬)
推奨グレード -/エビデンスレベル -
・ミドドリン(低血圧治療薬)
推奨グレード C1/エビデンスレベル Ⅵ
・フルドロコルチゾン(副腎皮質ステロイド)
推奨グレード -/エビデンスレベル -
<便秘・消化管運動障害など>
・緩下剤(かんげざい)
推奨グレード -/エビデンスレベル -
・モサプリド(消化管運動機能改善薬)
推奨グレード C1/エビデンスレベル Ⅵ
・ドンペリドン(消化管運動機能改善薬)
推奨グレード -/エビデンスレベル -
✩エビデンスレベル
Ⅰ:システマティックレビュー(系統的レビュー)/RCT(ランダム化比較試験)のメタアナリシス
Ⅱ:ひとつ以上のRCTによる
Ⅲ:非RCTによる
Ⅳa:分析疫学的研究(コホート研究)
V:記述研究(症例報告やケースシリーズ)
Ⅵ:患者データに基づかない専門委員会や専門家個人の意見
(「認知症疾患治療ガイドライン2010年版における薬物治療の位置付け」和田健二・中島健二、2012より作成)
レビー小体型認知症で見られるのは、アセチルコリン系の働きが低下し、コリンエステラーゼ阻害薬が有効と考えられていること。同じく、ドネペジルやリバスチグミンが有効といわれます。有効量の個人差が大きいですが、1~2.5mgの少量で改善することが多いです。
■薬剤性パーキンソニズムの原因薬剤
<循環器病薬>
・Ca拮抗薬(カルシウム拮抗薬)
・抗不整脈薬
・ドパミン枯渇薬(舞踏運動治療薬)
<消化器病薬>
・ベンザミド誘導体(消化管運動機能改善薬)
・抗潰瘍薬
<その他中枢神経系薬>
・認知機能治療薬(ドネペジル)
・抗てんかん薬
・気分安定薬
→ドネペジルもパーキンソニズムの原因となりうる
<抗うつ薬>
・三環系抗うつ薬(強力な作用を持つ抗うつ薬で、副作用も強い)
・四環系抗うつ薬(三環系より効き目、副作用とも少ない抗うつ薬)
・SSRI(神経伝達物資セロトニンの活性を高める抗うつ薬。三環系、四環系に比べて安全性が高く、ノルアドレナリンの活性も高めるSNRIタイプもある)
<抗精神病薬>
・ブチロフェノン誘導体系
・フェノチアジン誘導体系
・ベンザミド誘導体系
・非定型抗精神病薬 など
<その他の原因薬剤>
・抗がん剤
・インターフェロン製剤
・抗真菌薬
・輸液添加剤
(「スーパー総合医 認知症医療」長尾和宏総編集、木之下 徹専門編集、2014より作成)
※レビー小体型認知症には薬物過敏性があり、薬剤性パーキソニズムを招きやすいです。すべての使用薬剤を把握した上で、少量から慎重に投与しなければなりません。
コウノメソッドの場合
レビー小体型認知症への治療について、コウノメソッドでは、以下のように話しています。
「レビー小体型認知症の主な症状は、「記憶障害」「幻視」「パーキンソニズム」の3つで、これらを治療の標的とする。さらに、どの症状が強いかによって、典型的なタイプ(Dt)、陽性症状が強いポジティブタイプ(Dp)、パーキンソンタイプ(Dpd)、アルツハイマータイプ(Da)の4つのタイプに分けて、それぞれに応じた処方例を示している」。
一般的に、レビー小体型認知症は薬剤過敏症があるといわれるため、薬剤はごく少量からスタートすることが重要で、他の認知症と同様に、経過を見ながら調整をしていくことが大切です。
「注意が必要なのは、アセチルコリンとドパミンのバランスだ。アセチルコリンだけを過剰に増やすと、相対的にドパミンが不足し、歩行障害などが現れる。一方、ドパミンを過剰に増やすと幻視が悪化する。すべての症状を完璧に改善しようと増量するのではなく、少量ずつの処方にとどめるのが大切である」。
少量からの処方により、経過を観察して調整することが大事といえそうだ。
(『せんぶわかる認知症の事典』河野和彦氏監修から引用)