血液・髄液検査
認知機能が低下する要因のひとつに、身体的疾患があります。それを調べるためには、血液検査や髄液検査が有効とされています。どんなタイプの認知症に、この検査が有効であるかを解説します。
認知症診療で調べる血液検査の項目
認知症の中には、少ないながら「完治しうる認知症」があります。それは身体的な疾患が原因で認知機能が低下するもので、甲状腺機能低下症や、ビタミン欠乏症、正常圧水頭症などが挙げられます。これらには、変性性認知症合併がある場合も多く見られます。身体的な疾患による認知症を見逃してしまっては、「完治しうる認知症」をも見逃してしまうことにつながります。それを避けるためには、血液検査を行うことが必要で、下記項目の数値を確認します。記載してあるのが正常値になるので参考にしてください。特に注目すべきなのが、女性に多いとされる甲状腺機能低下とビタミンB1、B12欠乏症です。甲状腺機能低下はむくみなど、身体的症状が見られない場合もあるので、血液検査の数値が重要になってきます。ビタミンB1欠乏症は大量飲酒の習慣がある人に多く見られ、ビタミンB12欠乏症は、貧血や胃全摘出手術などの既往がある人がなりやすいです。
【認知症診療で調べる血液検査の項目】
■コレステロール値
総コレステロール(TC)/142~248mg/dL
HDL-コレステロール(HDL-C)/
男性 38~90mg
女性 48~103mg
中性脂肪/
男性 40~234mg/dL
女性 30~117mg/dL
■肝機能
総蛋白(TP)/6.6~8.1g/dL
アルブミン(ALB)/4.1~5.1g/dL
グロブリン(GLB)/2.2~3.4g/dL
アルブミン、グロブリン比(A/G)/1.32~2.23
総ビリルビン(TB)/0.4~1.5mg/dL
AST/13~30U/L
ALT/
男性 10~42U/L
女性 7~23U/L
γ-GT/
男性 13~64U/L
女性 9~32U/L
アルカリホスファターゼ(ALP)/106~322U/L
乳酸脱水素酵素(LD)/124~222U/L
コリンエステラーゼ(ChE)/
男性 240~486U/L
女性 201~421U/L
アミラーゼ(AMY)/44~132U/L
■腎機能
尿酸(UA)/
男性 3.7~7.8 mg/dL
女性 2.6~5.5 mg/dL
尿素窒素(UN)/8~20 mg/dL
クレアチニン(CRE)/
男性 0.65~1.07 mg/dL
女性 0.46~0.79 mg/dL
■甲状腺機能
FT3/2.1~3.8pg/mL
FT4/0.82~1.63ng/dL
甲状腺刺激ホルモン(TSH)/0.38~4.31μU/mL
■鉄・ビタミン
鉄(Fe)/40~188μg/dL
ビタミンB1/26~58ng/mL
ビタミンB12/233~914pg/mL
葉酸/3.6~12.9ng/mL
■電解質
ナトリウム(NI)/138~145mmol/L
カリウム(K)/3.6~4.8 mmol/L
クロール(CI)/101~108 mmol/L
カルシウム(Ca)/8.8~10.1mg/dL
■血液一般検査
赤血球数(RBC)/
男性 4.35~5.55 10✩/μL
女性 3.86~4.92 10✩/μL
ヘモグロビン(Hb)/
男性 13.7~16.8g/dL
女性 11.6~14.8g/dL
ヘマトクリット(Ht)/
男性 40.7~50.1%
女性 35.1~44.4%
平均赤血球容積(MCV)/83.6~98.2fL
平均赤血球色素量(MCH)/27.5~33.2pg
平均赤血球色素濃度(MCHC)/31.7~35.3g/dL
白血球数(WBC)/3.3~8.6 10★/μL
血小板数(PLT)/158~348 10★/μL
✩部分は10の6乗、★部分は10の3乗
■血糖値
グルコース(GLU)/73~109mg/dL
ヘモグロビンA1c(Hb1c)/4.9~6.0%
※基準値は主に日本臨床検査標準化協議会(JCCLS)の数値を採用。実際には医療機関毎に定められている場合が多い。
髄液検査の実施法
認知症の検査で大切なのは、血液検査のほかに尿検査も挙げられます。高齢になると、腎臓や肝臓疾患を伴っている場合も多く、その有無を確認しておくのは大切です。
また、正常圧水頭症が疑われる際に行うのがタップテストという髄液検査です。髄液検査は被験者が横向きに寝て、背中を丸めてもらいます。腰椎の3番目と4番目の間、もしくは4番目と5番目の間に腰椎穿刺針を刺して髄液を少量抜き取ります。タップテストは2日連続で行い、採取量は30mlです。髄液所見に炎症などがなく、症状が一時的に改善するようであれば、正常圧水頭症の確定診断となります。
正常圧水頭症は脳室内の髄液が過剰になって脳を圧迫するため、歩行障害や認知症、尿失禁などの症状が見られます。そのため少量の髄液を採取することで、症状が改善するかどうかが見えてきます。
その場合はシャント手術を行い、髄液の排泄を促します。
アルツハイマーの補助診断は髄液検査で行うことが可能
昨今進められている研究として、髄液の中にある総タウ、リン酸化タウ、アミロイドβをバイオマーカーとして利用することが挙げられます。これらが異常値を示した場合は脳の病理変化が進んでいる可能性が高いです。
上記の表で、感度、特異度ともに高い場合、アルツハイマー型認知症の補助診断や軽度認知障害からアルツハイマー型認知症への移行予測がより正確にできると考えられています。
しかしながら現段階で、この検査はリン酸化タウ以外、健康保険適用外となっています。