町医者が認知症を診るわけ
日本認知症研究会の代表を務めさせて頂きます白土綾佳(しらどあやか)です。 今回はかんたんな自己紹介と、私が認知症診療を行うようになった道のりについてお話をさせて頂きます。
私は、茨城県の笠間市で内科医院をする町医者です。
日ごろは風邪をひいた、血糖が高いなどの内科の診療をしつつ、もの忘れ外来を通じて認知症診療もしています。
講演で認知症についてお話をする機会があるため「認知症の専門医なんでしょう?」と誤解されることもありますが、私は学会が認定する資格を有する‘専門医’ではありません。
なぜ専門医ではない町医者が、認知症診療をしているのか?
認知症は、他の病気と同じように、専門医が診た方がよい診療ができるのではないか。そう思われても不思議ではありません。
当時は公立病院で勤務医をしていた10年前の私も、同じように思っていました。「専門家に紹介すれば、しっかり診断と治療が受けられ、患者さんと家族に満足してもらえるはず」と無邪気に信じていたのです。
ところが、よかれと思って認知症症状がある方を大きな病院に紹介しても、患者さんと家族がブーメランのようにすぐに戻ってきてしまう。中には「もう絶対に行かない!」と怒っていた方もいました。
なぜ専門的な診療を受けても、いい結果に結びつかないのだろう?
全てはこの素朴な疑問から始まりました。
専門家に委ねてもうまくいかないのなら、主治医である自分の仕事は、まともな主治医意見書(介護保険を申請する際に主治医が病状を書く書類)を書くくらいなのか。
それならば認知症の最低限の知識でも身につけようと、書店で一冊の本を手にとりました。
「認知症治療 28の満足」という河野和彦医師が書かれた本です。
そこには、設備の整った大きな病院よりも、小さなクリニックの医師が認知症の患者さんをよくすることができると書かれていました。
自治医科大学医学部卒業後、茨城県の地域医療に従事され、平成29年にあやか内科クリニックを開院。大病院に紹介しても症状が改善しない患者さん、介護で疲れ切った家族を笑顔にしたいという思いで、公立病院勤務中にコウノメソッドを開始し、劇的に改善する患者さんを見て、この方法を全国に広げるための活動をはじめられる。「認知症にならない」予防と「認知症になっても大丈夫」な診療・環境づくりの両輪が整う社会を目指されている。