かなや内科クリニック
金谷潔史院長インタビュー
東京医科大学大学院医学研究科老年病学専攻博士課程を卒業した金谷先生は、母校の高齢診療科(旧老年病科)に入局、定年までの35年間所属していましたが、そのうちの22年間は分院である八王子医療センター高齢診療科に勤務していました。
1991~92年には、厚生省長寿科学振興財団基金により、オーストリア、ウィーン市立ポルツマン研究所ラインツ病院で神経病理を学んでいます。2019年に東京医科大学八王子医療センター高齢診療科教授に就任。
2021年11月、兼任教授でありながら西八王子駅近くに「かなや内科クリニック」を開業しました。老年内科全般、認知症、血液疾患のエキスパートであります。日本認知症学会専門医・指導医、日本老年医学会専門医・指導医・評議委員の金谷院長に、認知症医療の醍醐味を語っていただきました。(取材日2023年4月28日)
東京医科大学八王子医療センター兼任教授が開業
Q.どのような少年時代を過ごしたのか、どうして医師を志したのかをお聞かせください。
出身は北海道札幌市です。祖父が耳鼻科医、父親は内科医で、叔父は外科医でした。札幌で親戚も医師ばかりという環境のなかで、私自身が医師を志したのは自然な成り行きでした。具体的に医師を目指すことを考え始めたのは、中学校時代だったと思います。身近で見ていた父親の背中に影響を受けたのです。父親は、患者さんに寄り添う医師でした。夜間、入院している患者さんの具合が悪くなり、院長先生に診てほしいと言われると、当直医がいるのに深夜病院へ歩いていって診察していました。その様な父の背中をみていて医師という職業に漠然とした敬意を持ったのかもしれません。
Q.開業に到った経緯をお聞かせください。
20年以上東京医科大学の八王子医療センターに勤務したので、定年後は八王子で開業したいと思いました。患者さんもたくさん知っていますし、八王子なら少しは知名度もありますから。知り合いが多いので患者さんを紹介してもらえそうだし、何より八王子医療センターと連携プレーができます。
65歳で教授を退官してから八王子市内で開業する場所を探し、半年後に西八王子駅の近くにこのクリニックを開業しました。2021年11月のことです。自宅は世田谷ですが、世田谷で開業して多くの患者さんは集まらなかったでしょうね。八王子で「認知症」の看板を掲げれば何とかなるだろうという思いはありました。
現在、開業して1年半経ったところですが、多くの認知症患者さんに来ていただいています。患者さんは八王子にとどまらず、山梨県、神奈川県、都内23区からも口コミやホームページをみて来てくれています。
私は今でも、八王子医療センター高齢診療科の兼任教授をやっていますので、週1回医療センターに行って患者さんの診察も行っています。高齢診療科は、「複数の疾患をかかえるお年寄りに対して、臓器別に治療するのではなく、全人的に治療する科」なのです。その精神は、独立・開業してからも、貫いております。
高齢者は臓器別でなく全人的な治療が大切
Q.認知症を治療するうえで何か工夫していることはありますか?
当院では原則として予約をいただき、ご家族同席のもとに初診を行います。最初の問診ではどういう状況か、BPSD(認知症に伴う行動・心理症状)の有無などをご家族から聞き取り、本人とも話します。その後の神経心理テストは、本人に対する「MMSE」、介護者の評価を中心とした「ABC認知症スケール」を行います。
次は画像検査ですが、「頭部MRI」、「脳血流SPECT」、「DATスキャン」、「MIBGシンチ」等の画像検査を必要に応じて八王子医療センターに行って受けていただきます。毎週水曜日に八王子医療センターで高齢診療科の外来を担当しているので、早めに検査を行うことが可能になります。検査結果はCR-ROMを郵送して当院で説明します。
問診、神経心理テスト、家族からの情報に画像検査を加えて総合的に診断を下し、治療に入るという流れです。認知症の診断において区別すべき病態として、意識障害やせん妄、加齢による認知機能の低下、うつ状態による「仮面認知症」、老年期妄想疾患などがあります。また、治療可能な認知症として、甲状腺機能低下症、糖尿病、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、薬剤に伴う認知症などもあります。これらと真の認知症との鑑別診断を行うことがとても大切です。
Q.薬の使い方で何か工夫していることはありますか?
抗認知症薬4薬のうち、どれを使うかはそれぞれの場面で決めます。比較的よく使うのは、副作用の少ないパッチ製剤のリバスチグミンパッチとメマンチンです。アリセプト(ドネペジル)は副作用が強いので、注意しなければなりません。
詳しい検査を行わずに認知症を疑うと「とりあえずアルツハイマー、とりあえずアリセプト」を処方される先生がいらっしゃいますが、前頭側頭型認知症(ピック病)の人が紛れていると、とんでもないことになります。徘徊や暴力など陽性症状のBPSDが強く出て、介護できなくなりますから。
認知症の薬物療法で私が重要と考えていることは、ご家族の介護を楽にすることです。薬で記憶を良くしてあげることはできませんが、幻覚や妄想があればそれをある程度軽減することはできます。その結果、本人も苦しまなくなり御家族の負担も減らすことができます。そのような思いから、認知症の薬物療法では、中核症状の改善も重要ですが、BPSD(行動・心理症状)への対応も必要であると考えています。
妄想、暴力、徘徊等の激しい方で、抗認知症薬で症状が抑えられない場合は少量の抗精神病薬を使用します。その際は適応外使用になるので家族にきちんと説明してから使用し、定期的に副作用をチェック、症状が改善してきたら減量、中止していきます。
抗認知症薬の用量については、たとえばメマンチンは腎排泄型の薬剤なので、腎機能の悪い患者さんには10㎎までしか出しません。また、漢方の抑肝散をよく使いますがまれに低カリウム血症を来すことがあります。従って、投薬治療を行っている患者さんには定期的に血液検査を行い、副作用の管理を行っています。
Q.薬以外で認知症治療に有効な方法は何かありますか?
抗認知症薬は、4種類のほかに漢方の抑肝散を使い、サプリメントではフェルガードをよく使っています。抗認知症薬4種と抑肝散でも症状が改善しない場合、補完的にフェルガードを使う感じです。
また、MCI(軽度認知症障害)が疑われる患者さんやご家族には、フェルガードのパンフレットを渡して説明します。「このサプリは、MCIから認知症へのコンバート(移行)を予防するエビデンスがあります。プラセボ(偽薬)との二重盲検試験で実証済みです」と、データを見せながら説明して納得してもらい、自費で購入していただきます。
ちゃんと料金表を見せて、月にこれくらいかかりますと言えば、購入なさる方が多いですね。フェルガードは、軽度の人だけでなく、私は中等度や重度の人にも勧めています。いろいろ試しているうちに、薬よりもこちらの方がよかったというケースにたくさん出会っていますから。
患者さんに寄り添って地域医療に専念したい
Q.このクリニックの特色はどんなことでしょうか?
私の専門は老年医学、認知症、血液内科ですが、それ以外にも糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病、アレルギー疾患、呼吸器疾患、感染症など内科全般の診療を行っています。その根底には、東京医科大学八王子医療センターの高齢診療科で長年培ってきた「臓器別に治療するのではなく、全人的に治療する」という姿勢があります。社会的に高齢者は65歳からになっていますが、同センターの高齢診療科は、75歳以上の後期高齢者を対象にしています。当院では年齢による線引きは行わず、「とりあえず、どんなに高齢であっても治療の対象にする。あきらめない」という姿勢です。
私の専門の一つである血液内科に関していえば、85~90歳の超高齢者になれば、相手にしてくれない大学病院や大病院が少なくありません。「もう年だから」と受診を断るのです。当院は、外来においでいただける患者さんであれば、お断りしないことをモットーにしています。
Q.地域とはどのように繋がりをもっていらっしゃいますか?
開業してから1年半ですが、地域に根付いてきたのを実感しています。八王子市は広いので、多くは八王子市内からの患者さんですが、多摩エリア、日野市、神奈川県相模原市、大月市など山梨県東部からお越しになる患者さんもいらっしゃいます。
八王子医療センターからの流れと口コミの影響だと思いますが、「どうしてそんな遠くから」と驚くようなこともあります。おそらく認知症と血液内科の専門医であることを知っていただけているからでしょう。血液疾患に関しては、悪性リンパ腫、急性・慢性白血病、多発性骨髄腫などの重大な血液疾患の診断と治療を、八王子医療センター高齢診療科、血液内科と連携しながら行っています。
Q.休日の過ごし方や将来の夢を教えてください。
暇を見つけてはジムに行って体を鍛えています。おもに筋トレと水泳です。体を鍛えるのが好きだということもありますが、健康でないと開業医はやっていけませんから。札幌育ちなので水泳は苦手でしたが、50歳を過ぎてからスイミングスクールで習って泳げるようになりました。上手ではありませんがどの泳法もできます。
逆に札幌育ちなので子どもの頃からスキーは得意で、60歳近くまで家族と軽井沢方面のスキー場へ出かけていました。夢は、少しでも長くこのクリニックを続けることです。現在67歳ですが、少なくともこの先10年間は続けたいという気持ちがあります。
大学病院で教授をやっていても、定年後はやりがいを感ずる仕事ができない先生が少なくありません。老人病院の常勤のお誘いはありましたが、私は「患者さんの健康寿命を延ばして在宅生活を維持することに生きがいを見出す」開業医がやりたかったのです。当院に来る患者さんは、治って帰りますから、今の仕事にやりがいを感じます。
高齢であっても、もっと元気に生きていただきたい。治して帰すのが医者の喜びなので、これ以上のやりがいはありません。このやりがいをいつまでも続けたいというのが、私の夢です。
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