東京メモリークリニック蒲田
園田康博院長インタビュー
昭和大学医学部を卒業後、昭和大学第三内科へ入局した園田先生は、2015年に「東京メモリークリニック蒲田」を開院した。脳神経内科医としての豊富な経験をもとに、認知症専門医療、訪問診療、一般内科診療、脳神経内科診療を行い、地域医療に貢献している。
同院の特徴は、在宅療養支援診療所として週5日の午後を往診に充てていることだ。地域を大切にする一方、認知症のエキスパートと知って、全国から受診希望が舞い込むという。難病指定医であり、日本認知症学会、日本神経学会、日本リハビリテーション医学会等に所属する園田院長に、認知症医療の神髄を語っていただいた。(取材日2023年4月28日)
脳神経内科医としての確かな経験に基づく認知症専門医
Q.どのような少年時代を過ごしたのか、なぜ医師を志したのかをお聞かせください。
生まれは東京都の市ヶ谷で、公務員家庭の長男として育ちました。医師を目指したのは、父親の影響です。「人の役に立つ仕事だから」と、幼い頃から医師になるよう刷り込まれました。幸い勉強が好きで、コツコツ努力するタイプだったので、受験勉強も苦になりませんでした。九段中学から日比谷高校へ進んだのですが、本を読むことと走ることが好きでしたね。
中学時代の思い出は、放課後神田駿河台の予備校に通う途中、神保町の古本屋巡りをしたこと。高校時代の思い出は、持久走でいつも皇居のお堀端を走っていたことです。家庭では、よく料理をしていました。親が共働きだったので、両親と妹と自分の4人分、私が晩ご飯係をしていたのです。今でも料理は大好きで、妻任せにせずよく自分でつくります。
Q. 研修医時代の思い出をお聞かせください。
昭和大学医学部を卒業後、第三内科に入局しました。そこは講座制で、主任教授がいて、循環器、内分泌、神経と、それぞれの教授がいるのです。私は、3年目から脳神経内科を専攻しました。今は制度が変わりましたが、当時は大学病院の医局員として数年間を過ごすと、関連病院へ出向するのが慣例でした。私が出向した亀田総合病院(千葉県鴨川市)は、房総半島一帯の救命医療を担う基幹病院だったので、大変でもあり勉強にもなりました。当時の研修医は、連続長時間勤務が当たり前でした。1ヵ月帰れないことも、ザラにあります。
いちばん多く診ていたのは脳血管障害で、脳出血、脳梗塞などの対応に追われました。脳神経内科の守備範囲は広く、内科の疾患で神経がらみの症例は少なくありません。また、パーキンソン病もかなり診ていました。認知症の患者さんもいらっしゃいましたが、当時はメインではなく、関心を持っていた程度です。亀田総合病院の後は、賛育会総合病院、東京保健生活協同組合東京健生病院などに勤務しました。
Q. 開業に到った経緯をお聞かせください。
2012年10月に循環器の先生と一緒に「蒲田内科クリニック」を開院しました。2年近くそちらで外来と訪問診療を行った後、私が独立して2015年3月、同じ東京蒲田の地で「東京メモリークリニック蒲田」を立ち上げたのです。認知症に特化したクリニックをつくりたかったので、名称に「メモリー」を入れました。それまで訪問診療していた約80名の患者さんを引き継ぎ、今でも在宅で診ています。ここに決めたのは、訪問診療していて立地が気に入ったからです。京急蒲田駅とJR蒲田駅の両方が使え、羽田空港や新幹線品川駅へのアクセスもよく利便性が高いからです。その為、かなり遠方から患者さんがいらっしゃいます。完全予約制なので、遠方からの受診希望者には「ちゃんと通えますか」と聞いたうえで受けるようにしています。
開院後ホームページを充実させ、トップページに「認知症の診断・治療を行っております。」と大きく掲げたのがよかったのでしょう。サイト内も認知症に関する記事を充実させたので、認知症専門医院として知られるようになりました。ホームページを見て来られる方が、本当に多いですね。最近は、地元のクリニックや地域のケアマネジャー、行政からの紹介も多くなってきました。
薬を少なく使うのが高齢者医療のポイント
Q. 認知症を治療するうえで何か工夫していることはありますか?
認知症を引き起こす疾患はいろいろありますが、まずは正しく診断されなければなりません。そうでなければ、適切な治療ができないからです。私は脳神経内科医なので、症状を把握することに全力を傾けます。そのため、予約を入れて来院なさった初診の患者さんは、1時間半ほどかけて診察します。初回診察では、全体的な病態把握のための問診と各種検査です。診察後、必要に応じて血液検査や心電図等検査を実施し、頭部MRI、脳血流シンチグラフィー、MIGB心筋シンチやDATスキャンなどの画像検査を連携している医療機関に依頼します。
2回目の診察では、問診や各種画像を含めた検査結果に基づいた診断結果の説明です。同時に、投薬治療を開始します(状況に応じて、初診時から投薬治療を開始する場合もあります)。認知症の症状は100人いれば100人とも違うので、治療法もその人に合わせなければなりません。いわば、テーラーメイドの治療が必要なのです。
Q. 薬の使い方で何か工夫していることはありますか?
たとえばパーキンソン病はレビー小体型認知症とリンクしていて、薬剤過敏に注意しなければなりません。研修医時代、薬の量について痛感させられる出来事がありました。当時は1980年代の終わり頃ですから、レビー小体型認知症があまり認識されていなかった時代です。80代のパーキンソン病患者さんに治療薬であるシンメトレルを規定量処方したところ、妄想がひどく出て手がつけられない状態になりました。それが薬の量を減らした途端、妄想が落ち着いたのです。その経験から周囲を見渡して、パーキンソン病の薬も抗精神病薬も、少量投与すると良くなる人が結構いることに気づきました。同僚の先生とも「少量で済むね」と確認し合ったものです。
これは後に河野和彦先生の文献で、「ピック病の陽性症状は、抗精神病薬ウインタミンの少量投与で改善する」と書かれたものを読んで腑に落ちました。向精神薬や神経に作用する薬だけでなく、全般的に高齢者には薬が少なくていいし、そのほうが著効することが多いようです。
Q.薬以外で認知症治療に有効な方法は何かありますか?
特定のサプリメントを推奨しています。おもにMガードとフェルガードですね。Mガードは、アルツハイマー型認知症と診断した患者さんには、一応お勧めしています。近年アミロイド仮説よりも信憑性が高いといわれるミエリン仮説に基づいて、脳神経の脱髄を修復するサプリメントであると説明するのです。
フェルガードは各種ありますが、フェルガードFがいいように思います。特にレビー小体型認知症の幻視にいいですね。これだけで幻視が消える患者さんもいます。
あと、薬物療法以外の要素でいえば、食事は大切ですね。私は2019年に、『食事を変えれば認知症は必ずよくなる!』(新星出版社)という本を出したのですが、食事の指導には力を入れています。私の外来を受診する患者さんの半数近くは独居なので、疾患の根底に食生活の乱れがあるのです。タンパク質不足による貧血、ビタミンやミネラルの不足、葉酸・亜鉛・鉄分の不足など枚挙にいとまがありません。それと、いかに運動してもらうかも大切ですね。週に2日か3日、8000歩以上のウォーキングをする人としない人では、認知症になるかならないかの確率が4倍違うという研究結果が出ていますから。
地域を支える在宅医として頑張っていきたい
Q.このクリニックの特色はどんなことでしょうか?
認知症のほか、慢性頭痛、めまい、手足のしびれ・ふるえ・むずむず・麻痺、脳梗塞・脳出血後の後遺症、パーキンソン病などの神経難病、妄想性障害、発達障害、てんかん等を対象としていることです。通院が難しい方には、往診診療も行っています。ただし、大田区内及び近隣地域です。
このように幅広く脳神経内科医として治療を行っていますが、最大の特徴といえば、当院のモットーとして「認知症はなおる」を掲げていることではないでしょうか。「なおる」と言うと語弊があるかもしれませんが、認知症はかなりの確率でよくなります。確かに脳の器質的な変化による認知症は病理学的には治りませんが、臨床症状的にはよくなって、本人や家族にとって大変な「介護困難」と呼べる状況がなくなり、安全に普通に生活できるようになるのです。認知機能レベルもある程度保たれ、本人と家族にとって非常に良い人生の時間を過ごすことができるようになります。こうしたことを何度も経験しているので、私は「認知症はなおる」といっても過言ではないと思っています。
Q.地域とはどのように繋がりをもっていらっしゃいますか?
当院の理念でもありますが、地域に根差した医療を心がけています。その人の病気だけを診るのではなく、その人の生活全般、心の状態、過去から現在に至るまでの家庭環境、ご家族全体も含めて、俯瞰しながら全人的な見立てと治療・ケアに邁進しています。その具体的な現われが、地域包括支援センターのサポート医をしていることです。行政からのオファーで、地域で問題になっている人を「区からの往診です」と言って訪問し、そこから治療を始めるケースが少なくありません。多くは生活が成り立たない高齢者なので、ケアマネジャーや訪問看護ステーション・行政・薬局といったところとタッグを組み、医療、介護、福祉が力を合わせながら支援していきます。
Q.休日の過ごし方や将来の夢を教えてください。
今の趣味はジムのプールで泳ぐことです。水泳は40代の頃、スイミングスクールで習いました。クロール、バック、平泳ぎを混ぜながら、1回に3、4㎞を週3日泳ぐようにしています。以前は走ることもしていたのですが、走ると膝に来るし、同じ有酸素運動なら水泳の方が楽で全身運動になります。泳ぐことはとても性に合っています。この仕事をしていくうえで、健康は何よりも大事です。今60代の半ばですが、できるだけ長くこのクリニックを続けていきたい。そして、認知症の患者さんを一生懸命診ていきたいと思っています。これが私の夢です。
東京メモリークリニック蒲田
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