レビー小体型認知症(DLB)の発症リスクと診断基準
レビー小体型認知症(DLB:dementia with Lewy bodies)の発症原因そのものは明らかになっていません。ほとんどは家系的な遺伝ではない孤発性(こはつせい)によるものです。遺伝子で起こる家族性においては、原因のひとつとして、特定の遺伝子の関与が明らかになっています。また、病前性格がまじめな人に多い傾向があり、発症すると表情が暗くなることから、うつと間違われることがあります。ここでは、レビー小体型認知症(DLB)の発症を促進する危険因子や、うつ病と鑑別するポイント、さらに臨床診断基準について、解説します。
家族性のレビー小体型認知症(DLB)は数%未満
レビー小体型認知症(DLB)のほとんどが、遺伝とは関係なく発症します。遺伝で起こる家族性の割合は不明ですが、パーキンソン病の家族性が5%未満なので、レビー小体型認知症(DLB)も同程度の割合だと推測されています。
家族性の原因のひとつに、αシヌクレイン遺伝子(SNCA:エスエヌシーエー)があります。変異により、αシヌクレインの凝集性が高まり、レビー小体が形成されやすくなります。
さらに、GBA(ジービーエー)という遺伝子が関与することも明らかになっています。発症のメカニズムはまだ解明されていませんが、GBA変異があると、孤発性、家族性ともに、発症リスクが高まります。GBAの機能低下がαシヌクレインの不溶化促進、または分解低下を引き起こし、レビー小体の形成と蓄積を促すと考えられています。
レビー小体型認知症(DLB)の発症傾向
レビー小体型認知症(DLB)の多くは、70代、80代と高齢になって発症します。男女比では、2対1と男性の方が多く、生真面目で勤勉な性格の人に多い傾向があります。
アルツハイマー型認知症(ATD)は元気で明るい印象ですが、レビー小体型認知症(DLB)は暗く、無気力でうつ傾向が強く見られます。これは、神経伝達物質のうち、脳の興奮度を調節するアセチルコリン、気分に関与するドパミンの両方が減っていることが要因です。
さらに、レビー小体型認知症(DLB)の約70%は、話す言葉やふるまいに一時的に混乱が見られる状態である「せん妄」を合併しているという報告もあります。昼夜逆転や、興奮して歩き回るなど、不穏な行動が現れます。
これらの症状から、うつ病や他の精神疾患と誤診されることも少なくありません。しかしながら、レビー小体型認知症(DLB)は薬剤過敏性があり、三環系(さんかんけい)抗うつ薬(※)で身体機能が低下しやすいため、診断には注意が必要です。
※三環系抗うつ薬…ノルアドレナリンやセロトニン、ドパミンなどの、各種神経伝達物質の受容体と結合し、その作用を阻害する抗うつ薬のこと
高齢者のうつ病では、認知機能障害が現れることがあり、仮性認知症ともよばれています。うつ病仮性認知症と認知症の臨床症状での鑑別ポイントは、下表のとおりです。
レビー小体型認知症(DLB)の臨床診断基準
レビー小体型認知症(DLB)の診断では、中心的特徴、中核的特徴、示唆的特徴のうち、それぞれ何項目当てはまるかで、「臨床的にほぼ確実(probable)」「レビー小体型の疑い(possible)」などを診断します。
具体的な診断基準は、以下のとおりです。
(1)中心的特徴
●レビー小体型認知症[DLB]ほぼ確実[probable]、あるいは疑い[possible]の診断に必要
正常な社会および職業活動を妨げる進行性の認知機能低下として定義される認知症。顕著で持続的な記憶障害は病初期には必ずしも起こらない場合があるが、通常、進行すると明らかになる。
(2)中核的特徴
●2つを満たせばDLBほぼ確実、1つではDLB疑い
a. 注意や覚醒レベルの顕著な変動を伴う動揺性の認知機能
b. 典型的には具体的で詳細な内容の、繰り返し出現する幻視
c. 自然発生の(誘引のない)パーキンソニズム
(3)示唆的特徴
●中核的特徴1つ以上に加え示唆的特徴1つ以上が存在する場合、DLBほぼ確実
●中核的特徴がないが、示唆的特徴が1つ以上あれば、DLB疑いとする
●示唆的特徴のみではDLBほぼ確実とは診断できない
a. レム期睡眠行動異常症(RBD:アールビーディー)
b. 顕著な抗精神病薬に対する過敏性
c. SPECT(スペクト)あるいはPET(ペット)イメージングによって示される大脳基底核におけるドパミントランスポーター取り込み低下
(4)支持的特徴
●通常存在するが、診断特異性は示されていない
a. 繰り返す転倒・失神
b. 一過性で原因不明の意識障害
c. 高度の自律神経障害(起立性低血圧、尿失禁など)
d. 幻視以外の幻覚
e. 系統化された妄想
f. うつ症状
g. CT/MRIで内側側頭葉が比較的保たれる
h. 脳血流SPECT/PETで後頭葉に目立つ取り込み低下
i. MIBG(エムアイビジー)心筋シンチグラフィで取り込み低下
j. 脳波で徐波(じょは)化および側頭葉の一過性鋭波(えいは)
(5)DLBの診断を支持しない特徴
a. 局在性神経徴候(きょくざいせいしんけいちょうこう)や脳画像上明らかな脳血管障害の存在
b. 臨床像の一部あるいは全体を説明できる、他の身体的あるいは脳疾患の存在
c. 高度の認知症の段階になってはじめて、パーキンソニズムが出現する場合
(6)症状の時間的経過
(パーキンソニズムが存在する場合)
パーキンソニズム発症前、あるいは同時に認知症が生じている場合、DLBと診断する。認知症を伴うParkinson病(PDD)という用語は、確たるPDDの経過中に認知症を生じた場合に用いられる。実用的には、臨床的にもっとも適切な用語が用いられるべきであり、レビー小体病のような包括的用語がしばしば有用である。DLBとPDD間の鑑別が必要な研究では、認知症の発症がパーキンソニズムの発症後の1年以内の場合をDLBとする“1年ルール”を用いることが推奨される。臨床病理学的研究や臨床試験を含む、それ以外の研究の場合は、DLBとPDDの両者は、レビー小体病あるいはαシヌクレイン異常症のようなカテゴリーによって統合的にとらえることができる。
「Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies : third report of the DLB Consortium.」McKeith IG, Dickson DW, Lowe J. et al. 2005 より引用/日本語訳は『認知症疾患治療ガイドライン2010』日本神経学会監修、「認知症疾患治療ガイドライン」作成合同委員会編、2010