前頭側頭型認知症(FTD)とは
前頭側頭葉型認知症(FTD:frontotemporal dementia)では、人間らしさをつかさどるといわれる前頭葉が障害されることにより、人格や行動に変化が起こるのが特徴です。下位分類として、前頭葉変性型(FTD-FLD)、ピック型(ピック病)、運動ニューロン疾患型(FTD-MND)の3つがあります。
前頭側頭型認知症(FTD)の95%以上はピック病
前頭側頭型認知症(FTD)には、前頭葉変性型(FTD-FLD)、ピック型(ピック病)、運動ニューロン疾患型(FTD-MND)の3つがあります。臨床的には全体の95%以上をピック病が占めるため、前頭側頭葉型認知症は、ほぼピック病に相当すると考えてよいでしょう。
ピック病は、前頭葉や側頭葉に限定して萎縮がみられる、進行性の認知症です。アルツハイマー型認知症(ATD)とは異なり、老人斑や神経原線維変化は、あまりみられません。
変性した神経細胞内には、リン酸化したタウタンパクを主成分とする異常構造物「ピック球(ピック小体ともいわれる)」が出現します。ピック球がみられるのは、ピック病全体の約半数ですが、その有無による、臨床的な差はないとされています。
ピック病における脳の病理
ピック病では、脳の前頭葉と側頭葉に限定した萎縮がみられます。萎縮の程度に左右差があるのが特徴で、通常、優位半球(一般的に左半球)のほうが強く萎縮します。
ピック病のポイント①<br>前頭葉、側頭葉が萎縮し、脳溝が開く
脳溝(脳のひだ)が広がって、脳回(脳の溝と溝のあいだの膨らみ)が細く、先が尖った形になります。脳回がナイフの刃のように鋭くなることから、「ナイフの刃状萎縮」とよばれます。
さらに、前頭葉の底面「眼窩面(がんかめん)」が萎縮し、前頭葉と側頭葉を分ける溝「外側溝(がいそくこう)」が大きく開きます。
ピック病のポイント②<br>後方連合野、大脳辺縁系、大脳基底核への抑制が外れる
思考・判断の中枢であり、脳全体の司令塔である前頭葉の機能が低下することで、視覚・触覚・聴覚などをつかさどる「後方連合野」、記憶・本能・自律神経をつかさどる「大脳辺縁系」、運動・認知・感情などをつかさどる「大脳基底核」に対するコントロールがきかなくなります。その結果、多様な異常行動や精神症状が現れます。これを「脱抑制(だつよくせい)」といい、ピック病の特徴のひとつです。
ピック病における神経細胞の変性
神経細胞内にピック球が出現しますが、それが確認できるのは、ピック病全体の半数程度です。ピック球は、アルツハイマー型認知症(ATD)におけるタングルと同様、繊維状のタウタンパクが凝集したもので、それが球状に蓄積します。
また、神経細胞の中に、顆粒を含む空砲である「顆粒空砲変性」も増加します。
さらに、神経細胞そのものが膨らみ、丸みを帯びて大きくなる「膨化(ぼうか)」という現象も起こります。