画像検査①CT検査
CT検査は被験者の身体への負担が軽く、検査時間も短いため、比較的受けやすい検査です。CT画像では脳を輪切りにした断面図を確認でき、認知症の重要な診断材料となります。CTについて詳しく見ていきましょう。
CT検査の原理と実施法
さまざまな疾患の検査で行われているCT検査。正式名称はコンピュータ断層撮影法と言い、検査したい部位にエックス線を照射して、各組織のエックス線の吸収量をコンピュータに取り込んで処理をし、画像化するものです。CT検査の実施方法は、台に横たわり、ドーナツ型の大きな装置の真ん中を通します。その際に、装置が回転して360度全方向からエックス線を照射して、CT画像を撮影。検査時間は30秒~5分程度と短いため、患者さんの身体的な負担も軽く済むのが特徴です。画像では、エックス線を多く吸収する骨は白く見え、一方エックス線をほとんど吸収しない空気部分は黒く写ります。
認知症の画像検査で最も多く行われているCT検査ですが、脳のCT画像は灰色の濃淡で見え、水分や髄液は黒く写ります。脳のCT画像を見る際には、眼窩の中心と耳孔の中心を結ぶラインを「OMライン(オーエムライン)」、眼窩の下縁と耳孔の上縁を結ぶラインを「RBライン(アールビーライン)」と言います。認知症の診断をする際には、OMラインの脳水平断画像が適しています。
CT検査では、まず神経変性性と脳外科的疾患との鑑別をします。この脳外科的疾患には、慢性硬膜下血腫や脳腫瘍、正常圧水頭症などがあります。その後に、脳梗塞などの脳血管障害があるかを確認し、症状から推測される疾患を念頭に置きながら、脳の形や萎縮の度合いを見ていき、確定診断へと近づけていきます。
アルツハイマー型認知症のCT画像
アルツハイマー型認知症のCT画像の特徴は、4つの切断面から所見を示すことができます。図に示したような各切断面で解説していきましょう。
A.頭頂部断面
脳溝(のうこう)と呼ばれる脳の溝部分が、ほぼ均等に深く長く切り込んでいる様子が見られます。
B.側脳室断面
脳全体で脳溝が深く切れ込んでいて、くるみのように見えるのが特徴です。側脳室は拡大してタラコのような形で見えます。
C.第三脳室断面
アルツハイマー型の脳の場合、側頭葉が萎縮して、外側溝が大きく開いたようになります。
D.海馬を通る断面
海馬に高度な萎縮が見られます。その一方で、海馬の萎縮が顕著でない場合もあります。
全体的に大脳皮質が萎縮して、脳溝が深くなるのがアルツハイマー型認知症の特徴。初期から見られる頭頂葉の萎縮と、ほぼ均等に切れ込むように見える脳溝は2cm以上の長さがあり、脳の水平断最上段の切断画面と、その1cm下にある切断画像で10本以上ある場合、アルツハイマー型と診断される可能性は高くなります。
もうひとつの大きな特徴として、海馬の萎縮があげられます。とはいえ、海馬の萎縮は必ずしもアルツハイマー型認知症の条件ではなく、萎縮の少ないものもあります。そのため、症状と神経学的検査を併せて、診断することが大切です。
正常圧水頭症では、頭頂部に脳溝が寄り集まったしわ寄せがあります。突発性正常圧水頭症の約半数で変性性認知症が先行しているとの見方もあり、アルツハイマー型との合併症には、より注意が必要です。さらに、硬膜下血腫の後に水頭症を起こすケースもあります。
CT画像の冠状断で海馬と頭頂部の強い萎縮が見られ、その強さの度合いでタイプがわかります。
レビー小体型認知症のCT画像
海馬の萎縮が目立たないのが、レビー小体型認知症です。CT画像は健常な高齢者とさほど変わらず、高度の海馬萎縮が認められた場合は、レビー小体型認知症の可能性が低くなります。一方、レビー小体型認知症で前頭葉が強く萎縮しているタイプを、河野和彦氏はフロンタルレビーと呼んでいます。
前頭側頭葉変性症のCT画像
前頭葉や側頭葉が傷害される前頭側頭葉変性症ですが、全てが同じように萎縮するわけではありません。前頭側頭型認知症(ピック症)には、外側、内側、下側(眼窩面)、側頭葉といった4つのタイプがあります。
・外側の萎縮-前頭葉皮質の脳回が細かく萎縮。
・内側の萎縮-側脳室前角が丸く開大。側頭葉も萎縮し、先端がナイフの刃のように細い。萎縮には左右差がある。
脳血管性認知症のCT画像
脳梗塞が原因で起こることが多い脳血管性認知症には、広範囲に虚血が広がることが特徴のビンスワンガー病と、細い動脈が詰まるラクナ梗塞があります。留意点として、認知症の原因となる規模の障害かどうか症状と合わせて判断し、アルツハイマー型と脳血管障害が同程度に関与した認知症症状なら混合型認知症、同程度でなければ脳血管障害を伴ったアルツハイマー型認知症と判断するのが妥当です。もし脳血管障害が認知症を引き起こすものでなくても、変性性認知症を悪化させたり、進行を促進する場合もあります。せん妄やうつ、問題行動を起こしやすくなるのは、脳血管障害を要因とするものです。
その他の認知症のCT画像
CT検査は脳腫瘍の診断に有効で、転移性が疑われる場合には静脈から造影剤(ヨード液)を注入して撮影する造影CTなどもあります。
以下のような疾患の特徴を見ていきましょう。
・慢性硬膜下血腫-脳と硬膜の間に血腫ができ、脳が圧迫される。そのため正中線が偏っている。
・石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病-脳深部の淡蒼球(たんそうきゅう)、小脳の一部が石灰化。海馬萎縮も初期から見られる。
・ハンチントン病-脳中心部の尾状核(びじょうかく)の萎縮。そのため、側脳室の前角が拡大する。
・大脳皮質基底核変性症-尾状核の萎縮と側脳室前角の丸状の拡大がみられる。
・意味性認知症-側脳室前角が丸く開大。側頭極の萎縮や萎縮度に左右差がある。
>次の記事を見る「画像検査②MRI検査、SPECT検査、PET検査」
- キーワード