中核症状を知る 記憶の分類と障害について

投稿日:2023.06.07

記憶障害が最も強く出るのはアルツハイマー型認知症(ATD)です。記憶の中でも、特に新しい記憶が損なわれるのが特徴です。ここでは、代表的な中核症状である「記憶障害」の分類や症状について紹介します。

もくじ
記憶の分類
記憶に関わる脳の部位とその役割
主な認知症における記憶障害の症状

記憶の分類

記憶障害は、最も基本的であり、代表的な中核症状です。

そもそも記憶とは、物事を覚える「記銘」と、それをとどめる「保持」、必要時に引き出す「想起」という3つの脳内過程をさします。記憶障害とは、この過程のいずれかが障害されることをいいます。

記憶は、内容と時間軸で分類することができます。

記憶を内容にもとづいて分類すると、上図のとおり、過去の体験などを言語やイメージによって表現できる「陳述記憶」と、逆に言葉などでは表せない「非陳述記憶」に分けられます。陳述記憶はさらに、「意味記憶」と「エピソード記憶」に分類されます。

陳述記憶のうち、「いつ・どこで・何をした」というような、個人的な体験や社会的な出来事にもとづく記憶を「エピソード記憶」といいます。感情を伴うものが多く、アルツハイマー型認知症(ATD)では特にこの記憶が障害されます。

言葉の意味や一般知識など、学習して得た知識「意味記憶」は、意味性認知症(SD)で障害されやすい記憶です。意味記憶が障害されると、「あれ」「それ」といった表現が増えます。

非陳述記憶は「手続き記憶」ともいわれ、自転車に乗る、泳ぐといった体で覚える運動技術や、反復によって意識しなくても習熟する認知技能のことをさします。認知症では障害されにくい記憶です。

時間軸による分類では、上図のとおり、記憶の保持時間の長短によって「即時記憶」、「近時記憶」、「遠隔記憶」などに分類されます。

「遠隔記憶」や「近時記憶」、「長期記憶」、「短期記憶」という分類は、現時点を起点としたものです。「逆向記憶」と「前向記憶」は、記憶障害の発症時を起点に分類したものです。

記憶に関わる脳の部位とその役割

外部から新しい情報を取り込み、取捨選択して記憶するというプロセスは、脳の各部位が連携することで行われています。

体性感覚野や聴覚野、一次視覚野でキャッチした感覚情報は、海馬へ送られます。海馬ではその情報を記銘(物事を覚える)・一時保存した後、側頭葉に送り、長期記憶として固定します。

前頭連合野では、大脳辺縁系などと連携し、短期記憶を担います。大脳辺縁系の器官を通じて海馬へ情報を伝えるほか、各部位からの情報を整理・統合し、状況に適した思考・判断を担います。

記憶の中枢である海馬をはじめ、帯状回、扁桃体などからなる大脳辺縁系には、記憶の保存、整理・統合、出力を担う「パペッツの回路」と、情動を伴う記憶情報を担当する「ヤコブレフの回路」があります。

これらのうち、いずれかの部位が障害されると、記憶障害が起こります。

主な認知症における記憶障害の症状

アルツハイマー型認知症(ATD)では「エピソード記憶」が障害され、「意味記憶」も徐々に低下していきます。エピソード記憶では特に、「近時記憶」が損なわれます。

これは、記銘(物事を覚える)にかかわる、海馬領域の神経細胞が障害されやすいことが原因です。そのため、古い記憶は保持(覚えたことをとどめる)されていますが、新しく記憶することが困難になります。さらに進行すると、エピソード記憶を固定する側頭葉も侵され、古い記憶も徐々に失われます。

脳血管性認知症(VaD)では、脳深部の視床や後大動脈領域、角回が障害されると、記憶障害が出やすくなります。記銘や想起(覚えたことを必要時に引き出す)には時間がかかりますが、保持は比較的良好で、エピソード記憶も保たれるケースが多くなります。

レビー小体型認知症(DLB)では、一次視覚野の障害により、視覚情報に関連する記銘力が低下したり、記憶検査の成績が低下することがあります。

前頭側頭型認知症(FTD:ここではピック病と同義)では、記憶より行動の障害が強くなります。この点は、アルツハイマー型認知症(ATD)との鑑別をする際に役立ちます。

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