心理症状を知る うつ状態や気力の低下について

投稿日:2023.06.08

無気力、無関心、落ち込みなど、気力の低下が目立つ症状は、どの認知症でも起こりえます。脳の変性によって起こるほか、病気による自尊心の低下も、その引き金となります。ここでは、認知症の代表的な心理症状である、「アパシー」と「うつ」の原因と症状について紹介します。

もくじ
意欲や自発性が低下する心理症状「アパシー」
脳血管性認知症(VaD)、レビー小体型認知症(DLB)で特に多い「うつ」
アパシーとうつの病態の違い
アパシーとうつ症状のチェック法

意欲や自発性が低下する心理症状「アパシー」

「アパシー」とは、意欲や自発性が著しく低下して、自ら積極的に何かをすることがなくなり、閉じこもりがちになる症状のことをいいます。

どのタイプの認知症でも、アパシーが起こる可能性はありますが、特にアルツハイマー型認知症(ATD)では、初期〜後期まで、長期にわたって出現します。

アパシーは、前頭葉背外側部(ぜんとうようはいがいそくぶ)の障害で起こりやすいことから、前頭側頭型認知症(FTD)においても、しばしばみられます。認知症の進行に伴い、ものぐさな態度が強くなり、質問にいいかげんに答えるなどの症状として現れます。

脳血管性認知症(VaD)では、大脳基底核周辺の虚血(血液低下)が原因で、アパシーが現れやすくなります。

レビー小体型認知症(DLB)では、うつ病を合併するケースが多く、診断の際には、アパシーとの鑑別が重要になります。

アパシーの原因となる脳の障害部位は、下図のとおりです。

自発性にかかわる前頭葉背外側部や、情動・動機づけにかかわる前頭眼窩部が障害されると、アパシーが起こりやすくなります。大脳基底核周辺や視床の虚血も原因となります。

脳血管性認知症(VaD)、レビー小体型認知症(DLB)で特に多い「うつ」

脳萎縮や血管障害、神経変性などの器質的障害はうつを招きやすいため、認知症患者には、うつ症状がしばしば出現します。その症状は、悲哀感や自己評価の低さよりも、「喜びの欠如」が著しいのが特徴です。「慢性頭痛」、「不眠」などの身体症状を訴える患者も、多くみられます。

アルツハイマー型認知症(ATD)の初期には、20〜40%にうつ症状がみられます。初期は身体能力や記憶力の低下で喪失感を抱きやすく、状況を把握する力が低下する「見当識障害」による強い不安もあります。さらに、自分が病気であるという理解(病識)があるため、失敗を指摘されると落ち込み、悲観します。この一連の心理状態が、うつ症状を招いているともいえます。

脳血管性認知症(VaD)では、アルツハイマー型認知症(ATD)よりも高頻度でうつ状態に陥り、しかも進行しやすいという特徴があります。

レビー小体型認知症(DLB)でもうつ症状が多く、約半数の頻度で、初発症状として現れます。「難治性うつ病」と診断されたケースに、レビー小体型認知症(DLB)が見つかることも少なくありません。

うつの原因となる脳の障害部位は、下図のとおりです。

認知機能低下を伴ううつ症状には、前部帯状回(ぜんぶたいじょうかい)、下前頭回(かぜんとうかい)、海馬、島(とう)の活動低下が影響しています。中でも海馬は、アルツハイマー型認知症(ATD)で特に障害されやすい領域です。

アパシーとうつの病態の違い

アパシーとうつには、重複する症状もありますが、アパシーでは意欲の低下が目立ち、うつ病では抑うつと悲壮感が顕著に現れます(下図参照)。

アパシーとうつ症状のチェック法

アパシーやうつの発症を疑うときは、スクリーニングテストを活用して診断します。脳血管性認知症(VaD)におけるアパシーの評価には「やる気スコア(Apathy Scale)」、認知障害を伴ううつ症状の評価には「CSDD(シーエスディーディー:Cornell Scale for Depression in Dementia)」が適しています。

アパシーの評価尺度「やる気スコア(Apathy Scale)」

1.新しいことを学びたいと思いますか?
2.何か興味を持っていることがありますか?
3.健康状態に関心がありますか?
4.物事に打ち込めますか?
5.いつも何かしたいと思っていますか?
6.将来のことについての計画や目標を持っていますか?
7.何かをやろうとする意欲はありますか?
8.毎日張り切って過ごしていますか?
9.毎日何をしたらいいか誰かにいってもらわなければなりませんか?
10.何事にも無関心ですか?
11.関心を惹かれるものなど何もないですか?
12.誰かに言われないと何もしませんか?
13.楽しくもなく、悲しくもなく、その中間くらいの気持ちですか?
14.自分自身にやる気がないと思いますか?

採点法
設問1~8
全くない:3点、少し:2点、 かなり:1点、おおいに:0点

設問9~14
全く違う:0点、少し:1点、 かなり:2点、まさに:3点
16点以上で、アパシーと診断されます。

出典情報
「Apathy following cerebrovascular lesions.」Starkstein SE,et al.1993/「やる気スコアを用いた脳卒中後の意欲低下の評価」岡田和悟・小林祥泰・青木 耕・須山信夫・山口修平、1998より引用

うつ症状の評価尺度「CSDD(Cornell Scale for Depression in Dementia)」

【気分の抑うつ】

✔️ 急に涙ぐむ
✔️「生きる価値がない」などと言う
✔️「自分のせいだ」と自分を責める

【身体症状】

✔️「頭が痛い」「体がだるい」「耳鳴りがする」「ドキドキする」と訴える
✔️食事の量が減った
✔️明らかに体重が減った
✔️夜間よく眠れない

【思考・精神運動停止】

✔️これまでの趣味などに興味を示さない
✔️問いかけに適切な答えが戻ってこない

【不安・焦燥】

✔️落ち着きなく動き回る
✔️予定や約束について繰り返し聞く

採点法/1項目につき1点
高得点ほど抑うつ度が高いと診断されます。
(統計上の目安は、軽度:7.7 ±2.5点、中等度:12.6 ±2.6点、重度:21.8 ±4.0点)

出典情報
「Cornell Scale for Depression in Dementia.」Alexopoulos GS,et al.1988/「CSDD(Cornell Scale for Depression in Dementia)日本語改訂版の作成:アルツハイマー型認知症患者を対象にして」堤田梨沙・安達圭一郎、2011より引用

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