行動症状を知る 不潔行為/食・性行動異常について
排泄物を手で触るなどの不潔行為は、ただの異常行動ではありません。その背景には必ず、認知機能低下、身体症状などの理由があります。ここでは、「不潔行為」と「食・性行動異常」の原因と症状について紹介します。
根底に中核症状があることが多い「不潔行為」
排泄物をもてあそぶ弄便(ろうべん)や、尿を撒き散らすなどの行動を「不潔行為」といいます。洗顔や入浴をせず、不衛生なまま平気で過ごす行為もこれに含まれます。認知症の進行に伴って現れる症状ですが、多くは排泄の失敗がきっかけとなって起こります。オムツの不快感のほか、「見当識障害」や「実行機能障害」などが、根底にある場合も多くあります。
「排尿障害」に起因するケースもあります。特にレビー小体型認知症(DLB)では、膀胱自律神経障害によって排尿筋過活動が起こります。その影響で、膀胱が過剰に収縮し、昼夜を問わず「頻尿」に見舞われます。その結果、排尿の失敗が増え、不潔行為につながりやすくなります。
不潔行為の原因と、代表的な症状
主な不潔行為の原因と、その結果として現れる症状を以下にまとめました。このほかに、介護者の叱責、ケアに対する不満、認知機能低下による退行現象が原因となって、不潔行為が生じるケースもあります。
1. 残便感、便秘
症状1:便を手で出そうとする
残便、残尿による不快感を解消しようとして手で触れ、衣服やトイレを汚してしまいます。認知症では、薬剤性や機能性の便秘になりやすいため、その不快感から下着やオムツに手を入れてしまうことがあります。
2. オムツの不快感
症状2:かゆみのためにおしりを触り、手が汚れる
ムレや皮膚のかぶれなどでかゆみが起こり、手でかこうとして、オムツの中の便に触れてしまいます。下着に便をもらした場合にも起こります。
3.見当識障害、実行機能障害
トイレの場所がわからず、洗面所やゴミ箱などで排泄し、片付けようとして手で触れます。トイレまでたどり着けても、失敗して便器や床を汚す、流し方がわからずに汚すこともあります。見当識障害がある場合は、トイレに大きな標識を貼っておきましょう。
4. 動作の緩慢、排尿障害
症状4:トイレまで間に合わず、もらしてしまう
脳血管性認知症(VaD)に多い症状です。運動障害によって素早く動けず、間に合わずにもらしてしまいます。レビー小体型認知症(DLB)では、過活動膀胱で頻繁に尿意が起こるため、排尿の失敗による不潔行為が多くなります。
食の嗜好や習慣の変化が起こる「食行動異常」
アルツハイマー型認知症(ATD)では、嗅覚障害からくる「食欲不振」がしばしばみられます。「記憶障害」で何度も食事を要求する、「視覚失認」で食事をうまく口に運べなくなることもあります。後期になると「嚥下障害」も目立ちます。
脳血管性認知症(VaD)では、「運動麻痺」のために食事に時間がかかります。よだれが増え、食事中にむせることも多くなります。前頭側頭葉型認知症(FTD)では、甘いものを好むようになる「食の嗜好の変化」や「過食」などの異常が顕著に現れます。
上図にあるとおり、前頭側頭型認知症(FTD)、意味性認知症(SD)などの前頭側頭葉変性症(FTLD)は、全ての項目において高い頻度で変化がみられます。これは、食行動に関連する、前頭葉、側頭葉が障害されるためだと考えられます。
例えば、前頭側頭型認知症(FTD)では、摂食中枢を担う前頭眼窩部(ぜんとうがんかぶ)と、島(とう)の腹側(ふくそく)部が障害されます。さらに、その影響で、摂食中枢の調整役である尾状核(びじょうかく)、被殻(ひかく)といった線条体(せんじょうたい)もダメージを受けます。これにより、嗜好や食事量の調整がうまく働かなくなり、病的な甘党になったり、過食症状が起こりやすくなったりします(下図参照)。
不適切な性的言動が増える「性行動異常」
男性の認知症患者には、「性行動の抑制」がきかなくなるケースもみられます。配偶者だけでなく、介護施設の職員などに対して、不適切な発言や接触を繰り返す症状が現れます。
前頭側頭型認知症(FTD)の場合は、前頭葉の障害で脳のほかの領域に対するコントロールが効かなくなる「脱抑制」が起こり、不適切な言動におよびます。
その他の認知症の場合は、自分のいる場所や空間が識別できなくなる「地誌的見当識障害」や、衣服の着脱ができなくなる「着衣失行」、陰部の皮膚疾患や泌尿器疾患などが、異常行動の背景にあると考えられます。