その他の認知症の薬物治療
アルツハイマー型認知症のような主要な認知症以外は、まだまだ薬物治療の研究が進んでいるとはいえない状況です。しかしながら、河野和彦氏が唱えるコウノメソッドでは、主要な認知症以外でも、推奨する薬剤が確立されつつあります。その内容をみていきましょう。
一般的な薬物治療の場合
昨今、診断技術の向上や治療法の進歩によって、治療可能な認知症がわかってきました。
■回復可能な認知症
・正常圧水頭症―髄液が過剰になってしまい、脳が圧迫されて起こります。
・慢性硬膜下血腫―頭部の外傷によって、くも膜と硬膜の間に血腫ができ、脳が圧迫されてしまいます。
・甲状腺機能低下症―集中力や活動性、記銘性が低下してしまいます。
上記のような全身疾患が要因の場合は、その疾患の治療をすることで、認知症の回復も可能です。
さらに、最近ではアルツハイマー型認知症など主要な変性疾患の治療も、認知機能改善薬によって、進化が見られています。
一方、それ以外の変性疾患においては、治療法がまだ見つかっていないものも多く、有効性は低いながらも抗精神病薬が使用されています。手の脱力から症状があらわれ、やがて全身の筋肉が萎縮してしまう筋萎縮性側索硬化症にも、未だ有効な治療法は確立されておらず、対処療法になっています。
<ガイドラインの推奨薬剤&対処法>
■大脳皮質基底核変性症(CBD)
・非定型抗精神病薬やパーキンソン症候群治療薬が用いられるが、有用性は低い。
・コリンエステラーゼ阻害薬には有用性があるとされている。しかしながら、エビデンスはない。
■進行性核上性麻痺(PSP)
・エビデンスのある薬剤はない。そのため、有用な治療法は確立されていない。
①コリンエステラーゼ阻害薬
②三環系抗うつ薬
③パーキンソン症候群治療薬のアマンタジン
①~③が用いられている
■ハンチントン病(HD)
・うつ、不安、易刺激性などの精神症状に有効性が示されている。
―非定型抗精神病薬のオランザピン、リスペリドン
・異常行動に有効性が示されている。
―クエチアピン
■クロツフェルト・ヤコブ病(CJD)
・治療抵抗性が強く、確立された治療法はない。
①抗マラリヤ薬
②神経細胞保護薬
③中枢性鎮痛薬
①~③は候補薬としてあげられている。
・原因となっているプリオンタンパクを抑え、低分子化合物、抗プリオン抗体については研究中となっている。
コウノメソッド治療薬剤
コウノメソッドで提唱しているのは、
「難治性の変性疾患でも、症状を重視するコウノメソッドの考え方は同様である。症状に応じて、きめこまかく処方することで、陽性症状の鎮静化とともに嚥下や歩行などの生活機能を改善する。進行性核上性麻痺や大脳皮質基底核変性症、レビー・ピックコンプレックスには、抑制系薬剤のクロルプロマジンや、興奮作用が弱いリバスチグミンが第一選択薬となる」
「フェルラ酸含有食品も有効だ。認知症の原因となる難病の多系統萎縮症にも効果が期待できる。製品ごとに強弱があるが、陽性症状が強ければ弱を、そうでなければ強を選択する」。(『せんぶわかる認知症の事典』河野和彦氏監修から引用)。
<コウノメソッドにおける推奨薬剤>
■クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)
・せん妄には抑肝散が有効。
・シチコリン注射、抗てんかん薬、リバスチグミン、フェルラ酸含有食品などの効果にも期待。
■嗜銀顆粒性認知症(AGD)
・認知機能改善薬を低用量で用いる。
・陽性症状が強い場合、定型抗精神病薬のクロルプロマジンを投与。
・フェルラ酸含有食品も有効。
■石灰化をともなうびまん性神経原線維変化病
・フェルラ酸含有食品(弱)で著しい効果を示す場合もある。
・リバスチグミン、パーキンソン症候群治療薬、クロルプロマジンなどで対応。
【レビー・ピック関連疾患】
■レビー・ピックコンプレックス(LPC)
・レビースコアが高い場合
―リバスチグミン
―抑肝散(漢方薬)
―セレネース
・ピックスコアが高い場合
―ウインタミン
―フェルラ酸含有食品(弱)
・アパシー
―シチコリン注射が有効
■大脳皮質基底核変性症(CBD)
・認知機能改善薬・リバスチグミンとフェルラ酸含有食品(弱)の併用が有効
・パーキンソン症候群治療薬やクロルプロマジンを低用量、併用
■進行性核上性麻痺(PSP)
・大脳皮質基底核変性症と基本的には同じ。フェルラ酸含有食品(強)を使用
・歩行障害にはグルタチオン大量点滴が効果的
(『せんぶわかる認知症の事典』河野和彦氏監修を参考)
※サプリメントは治療薬ではありません。使用の検討にあたっては、専門医に相談してください。