薬物治療の目的と用いる薬物
記憶障害、見当識障害などの薬物治療に関しては、認知機能改善薬を使用しますが、徘徊やうつなどの周辺症状には、また別の薬剤治療が必要となります。コウノメソッドによる治療方法と一般的な薬物治療を見ていきましょう。
ガイドラインにおける基本の治療
認知症の新薬が誕生してからもさらに、さまざまな研究が重ねられ、日進月歩で治療薬は進化を遂げています。薬物治療においては、中核症状に対してだけでなく、周辺症状の改善も重要であり、取り組みが成されています。
認知症の薬物治療は、日本で生み出された世界初の認知機能改善薬・ドネペジルが最初です。その後、認知機能低下の進行を抑える、この認知機能改善薬が中心となっています。
「認知症の薬物治療では、認知機能低下の進行を抑える、認知機能改善薬が中心に用いられる。
現在、4剤の認知機能改善薬があり、コリンエステラーゼ阻害薬と神経保護薬の2種に分けられる。併用すると進行抑制の効果がより高まるという試験結果があり、両者を併用することもある」。
認知機能改善薬には、コリンエステラーゼ阻害薬のドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンと、神経保護薬のメマンチンの4剤があります。
また心理症状である、うつやアパシー、不安・焦燥、妄想、幻覚、誤認や、行動症状である徘徊、暴言・暴力、無為・無反応、不潔行為、食行動・性行動異常などの周辺症状にも有効な薬剤開発が進められています。
「周辺症状には、抑肝散という漢方薬や、脳神経系に作用する向精神薬が用いられる。最近は、非定型抗精神病薬がよく用いられているが、認知症の保険適用外で、副作用の頻度も少なくない」。投与の際には慎重な判断が必要とされます。
以下のグラフは『認知症ガイドライン2010』に基づいた一般的な治療薬物ですが、中核症状、周辺症状、さらには周辺症状のなかの心理症状や行動症状によっても使用薬剤は異なります。
コウノメソッドにおける基本の治療
コウノメソッドを提唱する河野和彦氏によれば、
「ごく少量の薬物を組み合わせた細やかな処方で、患者や介護者の負担を減らし、生活の質を保つことを目的とする。
認知症の重症度を決めるのは中核症状だが、その進行抑制を意識しすぎると、周辺症状を悪化させてしまうことがある。認知機能改善薬の多くは、中枢神経を刺激し、興奮させるからだ」。
と説いています。家庭での介護の場合、徘徊や暴力などは介護を続けていく上で大きな問題となり、患者、介護者の両方に負担がかかってしまうため、周辺症状はある程度のところで留まって欲しいと考えます。
「周辺症状を陽性と陰性症状に分け、陽性症状のある患者には、まず興奮を静める抑制系薬剤を使う。それから、あるいは同時に、認知機能改善薬を用いて、中核症状に対処していく。陰性症状のある患者には、認知機能改善薬などの興奮系の薬剤を用いる」としています。
陽性と陰性のバランスが大事で、それを目的に処方の調整を行います。
(『せんぶわかる認知症の事典』河野和彦氏監修から引用)