「軽度認知障害(MCI)」と認知症と“関わりが深い”疾患
認知症の一歩手前の「軽度認知障害(MCI)」や、認知症と似ている症状がでる「てんかん」・「発達障害」について解説します。これらのように認知症と“関わりが深い”疾患についても知っておきましょう。
認知症の”一歩手前“の「軽度認知障害(MCI)」
多くの認知症は、症状が出る10~20年前から、特殊なタンパク質の蓄積や神経細胞の変性が始まっています。そして、少しずつ認知機能が低下し、「記憶障害」による物忘れや、「実行機能障害」による仕事や家事のミスが散見されるようになります。
症状が出始めているが、自立した生活を送ることができ、まだ認知症とはいえない。この認知症の一歩手前のグレーゾーンの状態を「軽度認知障害(MCI)」といいます。認知症予備軍ではありますが、脳細胞や神経ネットワークに回復力があるので、健康な状態に戻るケースも多くあります。
重要なのは早期発見。脳血管性認知症やアルツハイマー型認知症の原因となる生活習慣病対策として、食生活や生活習慣を見直すことも有効です。
周囲の人が、認知症の兆候にどれだけ早く気付けるかが、その後を大きく左右すると言えるでしょう。
認知症と”似ている“症状①「てんかん」
「てんかん」というと、子供の病気だと思われるかもしれませんが、実は高齢者の発症率が非常に高い疾患です。脳の神経細胞が突然、過剰に興奮して発作を起こす症状のことで、全身が大きくけいれんして意識を失うという「てんかん発作」が主な症状ですが、高齢者の場合はその発作が非常に静かであるのが特徴。大きなけいれんを起こすことなく、短時間意識が飛ぶような症状にとどまるので、てんかん発作だと見抜くのが難しいこともあります。
てんかんは脳梗塞などの脳血管障害や、それによる神経細胞の損傷、脳の萎縮などが原因となって引き起こされます。これが高齢者に起きやすいため、高齢者のてんかん発症率が高いのですが、これは認知症が高齢者に多い理由と同じです。そのため、てんかんの患者さんは認知症になりやすく、認知症の患者さんはてんかんを発症しやすいのです。
高齢者のてんかんで最も多いのが、側頭葉の障害が原因となる「側頭葉てんかん」です。特徴は1点を凝視したまま動かなくなる、口をもぐもぐ動かすなどの動作や、急に怒ったり、幻視症状が現れるなど、認知症に非常に近い症状が現れます。
そのため、側頭葉てんかんがアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症と診断され、認知機能の改善薬を処方されてしまうケースも。認知症として医療ケアを受けているのに、症状が悪化することがあったら、てんかんの可能性を考えてみるのも有効でしょう。
認知症と”似ている“症状➁「発達障害」
注意欠如・多動性障害(ADHD)、アスペルガー症候群、学習障害といった「発達障害」に総称される生まれつきの脳機能障害は、一部の認知症と関わりがあることがわかってきています。
さまざまな種類がある発達障害は、児童期の10~20人に1人が該当すると言われています。幼い子供はストレス耐性が低いため、症状が顕在化しやすいことが、その原因の1つになっているかもしれません。
しかし、実際には大人の発達障害も存在します。社会に出て強いストレスにさらされたことで問題が出てくるケースは少なくありません。発達障害には、以下のような症状や特徴があります。
「注意欠如・多動性障害(ADHD)」
<症状>
うっかりミスが多い
落ち着きがない
<日常生活における特徴>
細かな注意を払うことができない
注意力が持続しない
大事なことを忘れたり、約束をすっぽかす
順序立てて物事を進めるのが苦手
衝動的な発言や行動をすることがある
「自閉症スペクトラム障害・アスペルガー症候群(ASD)」
<症状>
コミュニケ―ションが苦手
空気が読めない
独自の強いこだわりがある
<日常生活における特徴>
団体行動が苦手
他人とちょうどいい距離感がとれない
人の話に関心が持てない
自己流で物事を進めたがる
興味のある分野で高い記憶力や集中力を発揮する
「学習障害(LD)」
<症状>
読み・書き・計算など、特定の学習だけが困難
<日常生活における特徴>
文字や単語、文章を正確に読むのが難しい
読んで内容を理解するのが難しい
正確な発音が難しい
文字や文章を書くのが難しい
数字や数式の扱い、推論が苦手
このように発達障害の症状や日常生活における特徴を見ていくと、認知症や軽度認知障害と似ていることがわかります。てんかんと同様、認知症としての医療ケアの効果が見られない場合は、発達障害の可能性を考えてみてもよいかもしれません。