認知症の約9割を占める「四大認知症」の原因と症状

投稿日:2023.06.08

認知症について調べていると、「四大認知症」という言葉をよく目にします。四大認知症とは、「アルツハイマー型認知症(ATD)」「レビー小体型認知症(DLB)」「前頭側頭葉変性症(FTLD)」「脳血管性認知症(VaD)」の4つを指し、認知症全体の9割を占めます。アルツハイマー型認知症については、知識を持っている人が多いかもしれませんが、ほかの3種の認知症とは原因や症状などが異なるので、あわせて知っておきましょう。

もくじ
四大認知症の割合
出来事や経験を忘れる「アルツハイマー型認知症(ATD)」
幻視が妄想を引き起こす「レビー小体型認知症(DLB)」
仕事や家事でミスが多発する「脳血管性認知症(VaD)」
人格が変化し、怒りっぽくなる「前頭側頭葉変性症(FTLD)」

四大認知症の割合

四大認知症といっても、その割合は全く異なります。圧倒的に多いのが「アルツハイマー型認知症」で、認知症全体の67.6%を占めます。次に多いのが「脳血管性認知症」で19.5%。この2種の認知症で、すでに87.1%を占めます。次に多いのがレビー小体型認知症で4.3%。前頭側頭葉型認知症は1.0%です。

アルツハイマー型認知症というと、いまや認知症の代名詞のような位置づけになっていますが、それを考えるとこの67.6%という数字は思ったより高くないと感じられるかもしれません。
実は、アルツハイマー型認知症には、まだ明らかになっていない点が多々あり、これまで、アルツハイマー型認知症と診断されていた患者さんが、よく調べたらそうではなかったというケースが増えています。それが、以前からある世間のイメージと、実際の割合とのギャップを生んでいるのかもしれません。

※参考:令和元年 厚生労働省老健局『認知症施策の総合的な推進について』

出来事や経験を忘れる「アルツハイマー型認知症(ATD)」

アルツハイマー型認知症は、脳内にアミロイドβタンパク質が凝集、蓄積されることで、神経細胞に強い毒性を持つアミロイドβオリゴマーが形成され、ゆっくりと脳細胞が死滅、委縮していく疾患であると考えられてきました。加齢が危険因子のため、高齢者、とくに75歳以上の後期高齢者に圧倒的に多く発症します。
アミロイドβが蓄積すること自体は疾患ではなく、健康な脳にも発生します。しかし、本来はそれが排出されたり、毒性を弱める仕組みが機能するため、脳は正常に保たれています。

脳の萎縮は、記憶をつかさどる「海馬」から始まります。さらに進行すると、時間や場所、人の認識などをつかさどる「側頭葉」や「頭頂葉」の委縮も進みます。そのため、アルツハイマー型認知症の中核症状には「記憶障害」、そして「見当識障害」があげられます。見当識障害は、時間・空間・人物などを認識する力が低下した状態のことで、例えば、現在の日時がわからなくなったり、よく知っているはずの風景が識別できなかったり、ご家族や親しい人はおろか自分自身さえ認識できなくなることもあります。

この見当識障害により、周辺症状として、「迷子」や「徘徊」、便を手で触る「不潔行為」といった行動症状、また、意欲や自発性が著しく低下する「アパシー」、状況判断が的確にできなくなることによる「不安・焦燥」、そして「被害妄想」といった心理症状が現れることもあります。

また、質問に答えられない時に誤魔化そうとする「取り繕い反応」がみられることも特徴の一つです。

幻視が妄想を引き起こす「レビー小体型認知症(DLB)」

1996年に国際的な診断基準が確立した、比較的新しい種類の認知症が「レビー小体型認知症」です。70歳以上の高齢者が発症する場合が多く、近年は患者数が増加傾向にあります。

脳内に「αシヌクレイン」という特殊なタンパク質が蓄積すると、神経細胞内に「レビー小体」と呼ばれる物質が形成されます。これが脳幹に出現し、「ドパミン」という神経伝達物質を生み出す部位が変性するとパーキンソン病に。大脳皮質全体に出現すると、レビー小体型認知症という診断になります。つまり、出現する部位により、どちらの診断になるかが決まるので、パーキンソン病に見られる諸症状が出ることがあるのが、レピー小体型認知症の大きな特徴のひとつです。

中核症状として、日常生活に必要な行動計画の立案や実行に支障をきたす「判断力障害」や「実行機能障害」が挙げられますが、その症状には多くのパターンが存在します。筋肉のこわばりや小刻み歩行といったパーキンソン病の症状が強く出るケースや、アルツハイマー型認知症に多い記憶障害が出ることもあり、それゆえ、レビー小体型認知症の正確な診断と適切な処方には、高いレベルが要求されます。

そして、レビー小体型認知症の兆候としてもっとも大きいのが「幻視」です。実際には存在しないものが、具体的に見えてしまう症状で、「知らない子供がいる」「ねずみが走り回っている」など、リアルな幻視に怯え、異常な行動に出る場合もあります。
また、夢に反応して叫んだり、暴れたりする「レム睡眠行動障害」という症状も見受けられます。

また、抗精神病薬などの薬剤に対して過敏性をもつので注意が必要です。

仕事や家事でミスが多発する「脳血管性認知症(VaD)」

「脳血管性認知症」は、脳の血管が詰まる「脳梗塞」や、脳血管が破れる「脳出血」のため、脳に必要な血が届かなくなる「脳血管障害」に起因する認知症です。その根底には「動脈硬化」があり、生活習慣病は脳血管性認知症のリスクを大きく高めます。

細い血管に障害が起きて発症する小血管性のものが疾患につながりやすく、脳血管が詰まることで血液や酸素が行きわたらなくなり、神経細胞の機能が失われて、認知症の症状が現れます。脳のどの部位がダメージを負ったかにより、症状は異なります

特徴的なのが「まだら認知症」と呼ばれる症状で、物忘れは進んでいるのに、理解力や判断力は落ちていなかったり、あるときはできなかったことが、別のときにはきちんとできたり、正常な機能と低下した機能が入り混じります。そのため、機能低下の症状が見られても、「一時的な不調だろう」と見過ごされがちなので注意が必要です。

また、進行の仕方にも特徴があり、脳梗塞などで脳の組織が損なわれるたびに、階段を下るようにさまざまな認知機能が低下していきます。

中核症状として、日常生活に必要な計画の立案や実行に支障が出る「実行機能障害」が挙げられ、献立を立てて買い物に行き、段取りを考えて調理するなど、今まで難なくできていた家事や仕事で、ミスが多発するようになります。
行動や言語、思考などが阻害される「失認・失行・失語」も中核症状のひとつです。

初期に出やすいのは、手足のまひやしびれといった身体の異常。また「アパシー」のほか、「感情失禁」と呼ばれる脳血管性認知症に特有の症状もあり、突然笑いだしたり、泣き出したりと感情がコントロールできなくなったり、欲求をコントロールできず、無制限に物を欲しがることもあります。
さらに、注意力が持続できない「注意障害」、物をうまく飲み込めない「嚥下障害」、正しい発音ができない「構音障害」が出現することもあるなど、脳がダメージを受けた場所や進行具合により、さまざまな症状が予測されます。

日ごろの生活習慣と大きく関わる認知症のためか、塩分過多の食事や喫煙人口が多い男性に多い傾向がある脳血管性認知症。健康診断で「血圧・血糖値が高め」「悪玉コレステロールが多い」と指摘されたら、脂肪が多い食事を控える、運動量を増やすなどの対策を心がけましょう。
もし、発症してしまったら、高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病の治療の検討が必要になるかもしれません。

人格が変化し、怒りっぽくなる「前頭側頭葉変性症(FTLD)」

思考力や判断力の中枢で、人間らしさをつかさどる「前頭葉」や言語理解や記憶に深く関わる「側頭葉」の神経細胞が変性し、委縮することで発症する認知症の総称を「前頭側頭葉変性症」といい、その代表格が「前頭側頭型認知症」です。
変性した神経細胞の中には「ピック球」と呼ばれる異常物質が現れ、神経ネットワークを損傷すると、前頭葉の機能にさまざまな障害が発生します。これを「ピック病」といい、前頭側頭型認知症の95%以上を占めます。40~50代と、比較的若い世代に発症することが多く、アルツハイマー型認知症などに比べ、進行速度が速いのも特徴です。

先に前頭葉の委縮が見られるため、初期症状として顕著に現れる中核症状が人格の変化です。別人になったかのように性格が変わり、社会性が損なわれてしまうため、突然、万引きや無銭飲食といった周辺症状が出て、それで初めて疾患に気づくというケースもあります。
また、怒りを抑える神経伝達物質が減り、攻撃性を高める神経伝達物質が増えることで、気持ちの抑制がきかなくなり、暴言や暴力で周囲を傷つけてしまうこともあります。
さらに、1日に同じ道を何度も歩き続けたり、同じことを何度も繰り返す「常同行動」や、極端な食の嗜好の変化も、初期に見られる周辺症状のひとつです。

病状が進行すると、今度は自発性が低下し、周囲や自分自身に対しても無関心になるという症状が出てきます。身だしなみに気を使わなくなり、不潔も気にしなくなり、また、同じ言葉を何度も繰り返すなどの言語障害が出てくることもあります。
側頭葉にまで障害が及ぶと、言葉の意味がわからなくなったり、言葉を発することや読み書きが困難になるなどの症状が出ることがあります。

別人になったかのような人格の変化に、近くで介護をするご家族の戸惑いは大きいでしょう。だからこそ、ピック病は理解することが何よりも重要です。

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